広告面指定

10買われた記事

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シリーズ「買われた記事」

  1. 010 広告面指定
  2. 09 報酬を得た「記事」に医薬品名、「時間差」で広告
  3. 08 共同通信、「対価を伴う一般記事を廃止」
  4. 07 医学論文にも利用されていた
  5. 06 電通の「見直し」と消えた組織
  1. 05 20年前には始まっていた
  2. 04 共同通信からの「おわび」
  3. 03 命にかかわる記事は載りやすい
  4. 02 「国の看板」でビジネス
  5. 01 電通グループからの「成功報酬」

記事とは記者が客観的な立場で取材をして書くものだ。スポンサーがカネを払って載せる広告とは違う。

命にかかわる薬の記事をめぐってカネが動いていた。

記事がカネで買われていたことにならないのだろうか。

人の命をどう考えるのかーー。広告とは、PRの仕事とは何か。そして、ジャーナリズムとは。

このシリーズを通じ、患者やその家族の皆さんと一緒にこの問いを考えていきたい。

シリーズ「買われた記事」では、電通グループの顧客である製薬会社の薬の宣伝をするために、共同通信グループが報酬を伴う記事を作成し、それを地方紙が掲載してきた実態を報じてきた。

前回第9回の「報酬を得た『記事』に医薬品名、『時間差』で広告」では、共同通信(一般社団法人共同通信社)の100%子会社 であるKK共同(株式会社共同通信社)が2009年と2010年、糖尿病特集を制作し、地方紙に配信していたことを報じた。電通から報酬を得ていた。問題の特集では、製薬会社MSDの糖尿病薬「ジャヌビア」の名前がはっきりと書かれていた。地方紙はその紙面に「広告」の表示を入れず、ふつうの記事として掲載している。

電通グループの内部資料によると、この特集に関しては大手製薬会社MSDを顧客とし、共同通信側に「共同通信配信料金・取材費用」などで2009年は450万円、2010年は570万円の制作費用が計上されていた。

製薬会社のカネが動き、特集紙面にはその製薬会社の商品名だけが掲載されている。だとしたらそれは広告ではないか。にもかかわらず地方紙は、「広告」ではなく「記事」であると主張してきた

ところが今回、そうした主張を覆すような内部記録を得た。出所は西日本新聞社だ。私たちは九州の福岡市に飛んだ。

西日本新聞社の本社やグループ会社が入るビルは福岡市の繁華街・天神地区にある。福岡市の中心部を貫く大通り沿いだ。近くには有名百貨店や福岡市役所、九州電力などがある=2017年9月14日午後3時52分、福岡市中央区天神1丁目(C)Waseda Chronicle/Makoto Watanabe

西日本新聞社の内部記録

問題の特集は、2009年と2010年、11月14日の「世界糖尿病デー」に合わせてKK共同が制作し、地方紙に配信した。これには共同通信の配信システムが使われた。

KK共同は「KK共同は独自の配信システムを持っていないため、社団共同(共同通信)の配信システムを借用して当該コンテンツを配信したことは間違いありません」としている

掲載された新聞は、2009年は6紙、2010年は17紙に上る。今回私たちが取り上げるのはその中の1紙、西日本新聞 だ。福岡市に本社があり、九州・山口地区で新聞を配っているブロック紙である

西日本新聞は、製薬会社MSDが当時販売を始めた糖尿病薬ジャヌビアの商品名を記載しているだけではない。商品のパッケージ写真まで載せている

医師の処方が必要な医薬品(医療用医薬品)の広告は、厚生労働省通知で禁止されている。私たちは「西日本新聞の特集紙面は規制に違反しているのではないか」という疑いを持った。

国の規制は以下の表の通りだ。

医療用医薬品と一般用医薬品
医療用医薬品(処方薬)一般用医薬品(市販薬)
一般向け広告(※)×
その他の広告規制虚偽・誇大広告の禁止(薬機法)
医師などが保証したと誤解を与えるおそれのある記事の広告などの禁止(薬機法)
医師の診断・処方せん×
公的医療保険×
価格国が決定自由
医薬品の例タミフルバファリンA

※薬機法第67条と関係政令で「がん」「肉腫」「白血病」の医療用医薬品の広告を規制、厚労省通知でそれ以外の医療用医薬品の広告も規制している ※政府は2017年2月28日、薬機法と通知の規制対象を「医薬品製造販売者に限られない」とする答弁書を閣議決定した。製薬会社だけではなく、広告代理店やメディアも規制対象になり得ることになる。出典:参議院ウェブページhttp://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/193/toup/t193036.pdf

私たちは西日本新聞社に、「厚労省の規制に抵触しているのではないか」という趣旨の質問書を送った 。今年1月の回答では「通信社の配信を受けて掲載した特集記事です」と、広告ではないとの見解を示してきた

本当にそうなのだろうか。

私たちは、問題の2009年と2010年の当該糖尿病特集について、掲載の経緯を示す西日本新聞社の内部記録を入手した。

その内部記録には、掲載した原稿の「作成者」「作成者部署名」のほか、「面名」が記されている。

「面名」とは、原稿を新聞のどのページに載せるのかを示すものだ。政治面、経済面、社会面、テレビ・ラジオ面など、新聞には様々な種類のページがある。「広告面」もある。原稿の作成者がどの面を指定したのかがわかる。

私たちが内部記録の中で特に注目したのは、その特集の左側に掲載された地元医師の談話だった。

特集は、KK共同が全国の地方紙に配信し、地方紙がそれぞれの地方で活動している医師の談話を付けて完成させるという構成だ。実際の紙面が下の写真である。西日本新聞の場合、2009年と2010年とも、同じ医師の談話が掲載されている。当時、九州大学先端融合医療レドックスナビ研究拠点の教授だった井口登與志医師だ。

九州大学の糖尿病専門医の談話を掲載した西日本新聞の紙面。上が2010年、下が2009年。2009年の特集紙面には医師の談話のすぐ下に商品のパッケージ写真も掲載している。

西日本新聞の井口談話の掲載の経緯を示す記録は2009年と2010年のいずれも次のようになっていた。

作成者→A氏

作成者部署名→P&C

面名→朝広A

広告を扱うグループ会社が作成

まず「作成者部署名」を見てみよう。原稿を作成した部署のことだ。

私たちが引っかかったのは、ここが「P&C」になっている点だ。

新聞社の報道部門には「社会部」や「科学部」などの部署があるが、P&Cという部署は聞いたことがない。西日本新聞社の報道部門(編集局)にも、そのような部署はない。

P&Cについて調べた。登記簿によると、正式な社名は「株式会社ピー・アンド・シー」という。会社の目的として、「広告、ピーアールに関連するクリエイテイブ業務およびパブリシテイ業務ならびにその代行業務」(原文ママ)とある。同社は2011年7月5日に解散しているが 、2009年2月14日のウェブページの記録 が残っていた。そこには、業務内容として「新聞編集・広告の制作」とあり、「西日本新聞の『特集』、『PRのページ』の記事制作」を掲げていた。「会社概要」の箇所には「私たちは1974年(昭和49)年に西日本新聞グループの一員として産声を上げました。以来、西日本新聞の特集、PRのページ、広告紙面等の企画・取材・制作を通して西日本新聞と地域を結ぶ一翼を担っています」と記述している。

株式会社ピー・アンド・シーは広告を扱う西日本新聞社のグループ会社だった。つまり、井口談話を取材して原稿を書いたのは、西日本新聞社の記者ではなく、広告を扱うグループ会社の人間だったということになる。

西日本新聞社のグループ企業だった「株式会社ピー・アンド・シー」のウェブページの一部。「業務内容」の箇所には「新聞編集・広告の制作」とあり、「西日本新聞の『特集』、『PRのページ』の記事制作」と記述されている

そのことから、私たちは強い疑いを抱いた。特集は、記事ではなく広告だったのではないかーー。

地元の医師の談話原稿を書いたA氏の履歴を調べた。もともとA氏は西日本新聞社の記者だった。2009年と2010年当時、編集局を離れ、そのP&Cというグループ会社に出向していた。その間、A氏は記者職ではなかったことになる。

つまり、井口医師の談話は、広告を扱う西日本新聞のグループ会社の人間が作成していたのである。

では、西日本新聞社は、新聞社ではないグループ会社の人間が作成した原稿をいったいどこの面に載せていたのか。

「『面名』が広告のページ」

それが、内部記録にある「面名」だ。そこには「朝広A」とある。

それはどういう意味なのか。西日本新聞社の関係者に聞いた。

「『朝』は朝刊のことで、『広』は広告のページ、つまり、井口医師の談話記事を、広告として載せますよ、ということです。『A』はカラーをかけることができる紙面で、西日本新聞の場合は見開きページの向かって右側のページにくることが多いです」

「だから当然、原稿の作成者は記者ではなくて、広告を扱うそのグループ会社の人なんです」

ということは、西日本新聞社は広告であるという認識を持っていたことになる。

西日本新聞社の内部記録。朝刊の広告ページに原稿を掲載することを示す「朝広A」の文字がある(写真上)。「朝広A・15」の「15」は「版名」を指し、この場合は「15版」を意味している。西日本新聞社の関係者によると、西日本新聞は、締め切り時間が早い順番に、15版が鹿児島と宮崎、16版が熊本と大分、17版が長崎と佐賀と日田(大分県)、18版が北九州などの福岡県内、19版が福岡市近郊に配られる新聞を指す。18版と19版が朝刊と夕刊がセットになった新聞。この場合、15版の指定をしているということは、締め切りが一番早い版からすべての版を通して問題の特集が掲載されるということを意味するという。写真下には西日本新聞社のグループ会社である「P&C」(株式会社ピー・アンド・シー)が「作成者部署名」として記録されている。「作成者氏名」と「更新者氏名」は同一人物で、実名で記録されているが、ここではモザイクをかけて加工した

「製薬会社から頼まれた」

私たちは、談話を寄せた井口医師に話をきくことにした。

井口医師は糖尿病の専門家で、九州大学医学部で教授を務めた。2017年3月に九大を退官し、福岡市が管轄する健康づくりサポートセンターのセンター長に就いた。そのセンター長室で話を聞いた

糖尿病特集に談話が載った経緯について。

「西日本新聞社ではなく、製薬会社のMSDから取材の連絡を受け、引き受けた」

「医療に詳しいライターが来るということだった。西日本新聞社の記者という認識は全くなかった」

「2009年、2010年ともそうだった」

井口医師はA氏を、西日本新聞社の記者とも、西日本新聞社のグループ会社の人間などとも認識していなかった。糖尿病治療薬ジャヌビアを販売する、そのMSDの担当者から「医療に詳しいライター」が来るといわれ、やってきたのがA氏だった。

井口医師の話でわかったことを整理する。

次の3点になる。

  • (1)MSDの担当者から、「世界糖尿病デー」に合わせ、糖尿病治療の啓蒙についてインタビューを受けてほしいと頼まれた。信頼できる担当者だったので引き受けた。MSDの新薬ジャヌビアを宣伝する意図はなく、あくまで糖尿病の啓蒙のつもりだった。
  • (2)「医療に詳しいライター」が来て、インタビューを受けた。ライターがインタビュー内容をまとめた原稿の下書きを送って来たので、井口医師は「てにをは」を直して送り返した。
  • (3)井口医師は掲載された朝刊を見て驚いた。自分の談話記事だけではなく、他の記事も合わせた大きな記事だったからだ。

井口医師の談話の中には「ジャヌビア」という特定の商品名の文字はなかったが、その談話のすぐ下に、「ジャヌビア」という商品名を盛り込んだ原稿が載っている。2009年の紙面では商品のパッケージ写真まで掲載している。

井口医師に話を聞いた後、MSDに事実確認を求めた。井口医師がMSDの担当者から連絡を受けてインタビューを引き受けた点などに関し、MSDの山下節子執行役員広報部門統括は「事実関係が確認できないので、コメントすることはできません」と話した

医師「結果として宣伝、申し訳ない」

井口医師は、ジャヌビアの宣伝に一役買ったのではないか。その点を尋ねてみた。

「(商品名が載っているところを除けば)全体的に啓蒙に役立つ内容になっているだろうと。結果としてこういう宣伝の形になったのは申し訳ないとは思います」

井口医師にしてみれば、自分のインタビュー記事とジャヌビアの商品名が組み合わされた特集が知らない間にセットにされ、宣伝に利用されたということになる。 「こっちは助かるんですけどね。(西日本新聞社が)きちっとしてもらうと。僕らが巻き込まれなくて助かる」

福岡市は「金銭のやりとりがあれば広告。是正を指導」

医療用医薬品の一般読者への広告は、医薬品医療機器法(薬機法)に沿って厚労省が規制する。実際の取り締まりは都道府県・政令市などが担い 、西日本新聞社の場合は本社がある福岡市が管轄だ。

井口医師に話を聞いた後、私たちは福岡市役所の担当課を訪ねた。福岡市地域医療課医薬務係の担当者はいった。

「(広告の要件である)特定の商品の誘引の意図があったかは、具体的には金銭のやり取りがあったかで判断する。(金銭のやりとりがあれば)是正を指導することになると思う」

ただし担当者は、KK共同から配信された糖尿病特集がカネが絡んだ広告だという認識を西日本新聞が持っていたかどうかもポイントだと説明した。

そこで私たちは福岡市の担当者に、西日本新聞社の内部記録では当該特集が広告面を指定されていたことを伝え、西日本新聞社が広告との認識を持っていたのではないかと指摘した。

福岡市の担当者はいった。

「なるほど、分かりました」

問題の特集は「広告面」の指定だった。西日本新聞社には広告であるという認識があったことにならないだろうか。しかも、井口医師の関連談話を作成したのは、広告を扱う西日本新聞社のグループ会社で、医師にインタビューの依頼をしたのは製薬会社の担当者だった。私たちは、国の規制に抵触する疑いが強いと受け止めている。

西日本新聞社は回答を拒否、「お答えすることはございません」

ここで一つの疑念がわく。

それは、「広告面」を指定しながら、「広告」の表示もなく、記事の体裁を取っていることだ。それは、広告であることを伏せて国の規制を逃れるためでないのか――。

私たちは筆者であるA氏にメールを出した。応答はなかった。このため、西日本新聞社の柴田建哉社長にも質問書を送ることにした。

2017年10月13日、以下の3点を尋ねた。

質問1 上記の「面名」の「朝広A」は広告紙面を指し、「作成者部署名」の「P&C」は当時の貴社の関連広告会社、「作成者氏名」の「●●●●」 氏は、当時貴社から「P&C」に出向していた者であることが判明しています。ところが、貴社は2017年1月21日、両年の当該記事について「特集記事」と回答し、広告ではないとの見解を示しています。この見解に変更はありませんか。変更がある場合は、その理由も付してご回答ください。

質問2 上記「質問1」に関連して、貴社の見解に変更がない場合、広告面を指定しておきながら、掲載時は広告ではなく記事として掲載した理由をご教示ください。

質問3 貴社またはP&Cは、MSDや電通など他社から井口登與志氏を取材し記事を掲載するよう依頼されましたか。依頼された場合、依頼して来た社及び依頼を受けた貴社またはP&Cの部署をご教示ください。

回答期日を、2017年10月17日の正午ということで質問状を出した。西日本新聞社の広報部から回答がきたのは、翌日だった。10月18日午前9時11分に届いたメールは34字。

「質問書を拝見しましたが、こちらからお答えすることはございません。以上です」

=つづく

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