20年前には始まっていた

05買われた記事

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シリーズ「買われた記事」

  1. 010 広告面指定
  2. 09 報酬を得た「記事」に医薬品名、「時間差」で広告
  3. 08 共同通信、「対価を伴う一般記事を廃止」
  4. 07 医学論文にも利用されていた
  5. 06 電通の「見直し」と消えた組織
  1. 05 20年前には始まっていた
  2. 04 共同通信からの「おわび」
  3. 03 命にかかわる記事は載りやすい
  4. 02 「国の看板」でビジネス
  5. 01 電通グループからの「成功報酬」

命にかかわる薬の記事をめぐってカネが動いていた。

記事がカネで買われていたことにならないのだろうか。

人の命をどう考えるのか――。広告とは、PRの仕事とは何か。そして、ジャーナリズムとは。

このシリーズを通じ、患者やその家族の皆さんと一緒にこの問いを考えていきたい。

【動画】特集・調査報道ジャーナリズム 「買われた記事」(C)Waseda Chronicle/Makoto Watanabe

私たちは「買われた記事」シリーズでこれまで、一般社団法人共同通信社(共同通信)が全国の地方紙に記事を配信すると、電通側から共同通信側にカネが支払われていた実態を報告してきた。電通側からカネを支払われていたのが、共同通信の100%子会社、株式会社共同通信社(KK共同)だった。

私たちが重視しているのは、それが薬を扱った記事である点だ。

記事が扱った薬の中には、脳梗塞(こうそく)を予防する抗凝固薬(こう・ぎょうこやく)がある。電通側は、顧客である製薬会社の抗凝固薬を宣伝するための記事の配信を共同通信側に持ちかけた。KK共同から話を持ちかけられた共同通信はそれを一般記事に仕立てて、加盟地方紙に配信した。地方紙は「広告」や「PR」などの明記もなく新聞に掲載した。そして、配信後、電通側の電通パブリックリレーションズ(電通PR)からKK共同にカネが支払われた

抗凝固薬に関しては、因果関係は明確ではないが、数百件以上の死亡事例が現場の医師らから公的機関に報告されている。記事のもとになったのは電通PRが事務局を務める団体が作った報道用資料だ。それを監修した日本脳卒中協会の専務理事は、電通PRに「我々は利用された」と怒り、「医療人として反省している」と語った

抗凝固薬だけではない。記事が配信された後に電通側からカネが支払われるケースは他にもあり、中には「カネの窓口」であるKK共同の責任者が自ら執筆した記事があった。共同通信が私たちの質問に認めた

読者は、新聞広告であれば宣伝のつもりで読むことができ、一般の記事であれば、配信・掲載するメディアが責任を持って判断した客観的な情報として受け取る。しかしこのシリーズで取り上げた共同通信の配信した記事は、「広告」とか「PR」といった表示はないまま地方紙に掲載された。読者が、客観的な記事と思って読んだ情報に製薬会社からのカネがからんでいたということなのだ。

子会社を介した、こうした電通と共同通信の関係はいつから始まっていたのか。5回目では、それを探る。

処方薬は広告制限、でも記事ならば…

薬の広告には特別な事情がある。国の規制だ。

薬には、薬局で買える「一般用医薬品」と、医師の処方箋が必要な「医療用医薬品」とがある。「医療用医薬品」の場合、厚生労働省の規制で、一般の読者や視聴者への広告は制限されている

しかし、記者が取材し、報道の一環として記事を出すのは構わない。製薬会社の利害関係とは一線を画しているからだ。

製薬会社の元営業担当者はいう。

「製薬会社は売り上げを増やしたい。だが医療用医薬品の広告は打てないから、いかにして一般記事として取り上げてもらうかを考える。しかし今回の『買われた記事』で取り上げられたケースのように、メディア側にカネが支払われるのは完全に一線を踏み越えてしまっている」

ゆりかもめ汐留駅のそばに建つ電通本社ビル(奥左)=2017年2月19日午前10時30分、東京都港区東新橋1丁目(C)Waseda Chronicle/Makoto Watanabe

私たちが会った電通関係者は、匿名を条件にこう語った。

「記事にすれば国の広告規制に問われることはない。電通は共同通信を利用してうまく製薬会社が販売する薬の宣伝をした」

厚労省はなぜ医療用医薬品の広告を規制するのか。同省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課の井上智博・広告専門官に聞いた

ーー何に基づいて医療用医薬品の広告を規制しているのですか。

「1980年に厚生省の薬務局長が都道府県知事あてに出した通知『医薬品等適正広告基準について』に基づいています」

ーーなぜ規制するのですか。

「医療用医薬品は効果が高い分、副作用もあり危険性も伴う。知識を持った医師が扱うべきものです。特に、がん、白血病、肉腫の場合、広告を出した時点で医薬品医療機器法(薬機法)違反になります」

だが製薬会社によっては、広告規制を逸脱するケースもある。

2015年1月6日、70社超の製薬会社でつくる日本製薬工業協会は、会員各社に文書で次のような事例を伝え、規制の遵守を呼びかけた。

昨今、テレビや新聞等のメディアを利用した情報発信のうち、いわゆる疾患啓発広告や企業名が記載されていない記事について『内容が不十分で誤解を招く』『患者や広く国民に対して不安を煽っている』『企業名が記載されていないが、実態としては特定の医療用医薬品の広告ではないか』等の意見や疑問が医療関係者だけではなく一般の方々からも寄せられています。

前出の電通関係者はいう

「規制にかからないよう共同通信を利用する仕組みです。共同通信は『利用される役目』を果たした。電通からすれば、報道機関の信頼性を利用してクライアントである製薬会社の医薬品を宣伝できる。共同通信は子会社にカネが落ちる。両者にとってウィンウィンです。知らないのは読者だけです」

少なくとも2005年には

では電通グループが、製薬会社の薬の宣伝を目的に共同通信側にカネを支払う行為はいつから行われていたのか。

少なくとも12年前には行われていた証拠がある。2005年6月、電通の100%子会社である電通PRが、社内の営業担当者向けにつくった資料だ。

共同通信の企画特集面「医療新世紀」の活用を促す電通PRの社内資料

タイトルは「共同通信『医療新世紀』企画 疾患啓発PR企画として提案活用を!」。

明確に、共同通信の企画特集面「医療新世紀」を利用するよう促している。資料の冒頭にはこうある。

共同通信では、毎週1回、地方紙向けに『医療新世紀』の企画記事を送稿しています。今回、KK共同通信社医療情報センターとのコラボにより、疾病と(原文のママ)テーマにした《啓発小冊子制作+記事配信+WEB展開》をセットにした企画が可能になりました。

ここで重要なのは、コラボの中に「記事配信」が含まれていることだ。電通関係者によると、共同通信によって地方紙に配信される記事が「PR企画」として利用されているという

カネはどう動くのか。

次ページには、記事は約130行もしくは約90行のいずれかのパターンで配信されることが紹介されている。その上で「《予算イメージ》」も記されている。記事を地方紙に配信し共同通信のウエブページにも掲載した場合の金額だ。以下のDPRとは電通PRのことだ。

「医療新世紀」DPR売値250-300万円(KK共同支払い70-130万円)

つまり記事を「医療新世紀」で配信した場合、電通PRが元請けの電通を通じ製薬企業側からもらう金額は250~300万円で、そのうちKK共同には70~130万円が支払われている。

地方紙や電通関係者への取材によると、「医療新世紀」のケースで電通側からカネをもらうのはKK共同だ。地方紙はカネをもらわない

電通PRが社員に「医療新世紀」を宣伝の場に活用することを勧めている社内資料には、実際の活用例も挙げられている。

それが、「高脂血症治療 根気よく」などの見出しの記事だ。ワセダクロニクルの調べでは、少なくとも全国の主要地方紙18紙に載った。

記事の内容は、以下のようなものだ。

「血液中のコレステロール濃度が高くなる高脂血症は心臓病や脳卒中の原因になるが、自覚症状がなく気づいた時は手遅れになることもある」

「『コレステロール値が一定より低くなるとがんや肝臓病になりやすく死亡率が上がってくる』という説があるが、コレステロール値が低いからといって死亡率が上昇した事実はない」

「コレステロール値を下げるため薬物療法が必要なケースもある」

記事には薬と製薬会社の名前は出ていないが、電通PRの社内資料によると、アステラス製薬(本社・東京都中央区)の製品でコレステロール値を下げる「リピトール」の販売支援が目的だ。

実際、電通グループの内部資料では、共同通信の記事配信に対して、2005年9月に電通PRからKK共同に130万円が支払われていた。

アステラス製薬はワセダクロニクルの問い合わせに対して「当時の担当者もおらず、記録等も残っていないことから、詳細についての確認はできません」と回答した

その記事の主な掲載紙は以下の通りだ。いずれも掲載年は2005年。カッコ内は発行紙の本社所在地。

主な掲載紙掲載日
(掲載年は2005年)
東奥日報(青森市)9月26日
秋田魁新報(秋田市)9月28日
福島民友新聞(福島市)10月31日
富山新聞(富山市)9月26日
北國新聞(金沢市)9月26日
神奈川新聞(横浜市)10月4日
岐阜新聞(岐阜市)10月15日
神戸新聞(神戸市)10月7日
奈良新聞(奈良市)9月29日
山陽新聞(岡山市)10月1日
山陰中央新報(松江市)10月5日
山口新聞(下関市)9月25日
四国新聞(高松市)10月15日
徳島新聞(徳島市)10月9日
高知新聞(高知市)9月30日
熊本日日新聞(熊本市)10月12日
宮崎日日新聞(宮崎市)9月27日
南日本新聞(鹿児島市)10月18日

問題の記事が掲載された地方紙。写真は山口新聞、高知新聞、神奈川新聞など=2017年3月24日午後6時28分、Baya撮影

「カネの窓口」記事作成、共同通信「知らんふり」

【動画】KK共同の医療情報センター長と前任者(当時の肩書きは健康情報センター長)へのインタビュー(C)Waseda Chronicle/Makoto Watanabe

2005年の高脂血症の記事を書いたのはKK共同の医療情報センター長A氏だ。このシリーズ4回目で、ニキビ治療薬「アダパレンゲル」について記事を書いたのと同一人物である。共同通信が認めている。A氏は共同通信の元科学部記者で、2002年から医療情報センター長を務めていた

このケースでも共同通信は、電通側からのカネの窓口であるKK共同の責任者が書いた記事を配信していたのだ

共同通信はカネがらみの記事をいつから配信するようになったのか。2016年12月29日、当の医療情報センター長A氏本人に会って話を聞くことにした

ーーなぜ記事を配信するとカネが支払われることをやっているのですか。

「なんでも載っけるわけじゃない。マスコミだと汚いところに手を出したくないみたいな雰囲気ありますよね、お金がからむやつは。だけど出した(配信した)ほうがいいようなデータもあるわけですよ。非常に、ある意味、綱渡りみたいなね」

ーーこういうシステムはいつできたんですか。

「これは長い。僕が(KK共同に)行く前からあった。前任者もやってた」

ーー電通PRからカネをもらって…..

「電通PRというより、電通なのね、電通との関係」

ーー医療情報センター長とはいえ、こういうことは独断ではできないのでは。KK共同なり共同通信なり、こういうことをやっているのは分かっているわけですね。

「分かってても知らんふりをしている」

「おカネの問題がからむとね」

「医療情報センター長」ではなくなった

A氏は、2週間後の2017年1月10日、電話でこう語った

「後ろめたいことはしたくなかった」

その時の電話で、私たちは彼に注意を呼びかけた。

「一連の記事作成・配信・金銭の授受は、現場の責任者が勝手にやったことだ、共同通信は何の関係もない、すべて医療情報センター長が悪い、とされるおそれがありますよ。あなたが考えついたシステムでもなんでもないのに」

2017年3月24日夕、KK共同の金子幸平・執行役員総務部長と電話で話した。その電話で、A氏は医療情報センター長の職ではなくなったと聞かされた。いつ?  なぜ外れたのかーー。

調べたことを電話で回答することになったが、その後、金子部長から電話はなく、メールが届いた。「詳細はお答えしかねますのでご了承願います」とあった。

「いくらいくらって電通の方からくる」

A氏は、記事が配信されると電通側からカネが支払われることは「前任者のときからあった」といった。私たちは2017年1月4日、その前任者に話を聞くことにした

A氏の前任者は、共同通信で科学を専門にしていた元編集委員だ。1997年に退職する数年前、つまり1990年代前半からKK共同に移ったという。20年以上前から始まっていたということだ。この前任者は、電通側からカネが支払われる経緯について、こう語った。

「加盟紙に配信すると、いくらいくらって電通のほうからくるっていうのはありました」

「健康モノはウケるんですよ。どこの新聞社もそうだけど、健康モノのページって必ず毎週1ページ取ってますよね。それを埋めるために、編集委員であれ、科学部の人間は必死になってネタ探しをするわけでしょ。そういうところに『こういう話があるんだけど』っていわれれば、それは書くと思います」

「みんなやってる」

ーーカネがらみの記事の配信はいつから始まっていたのですか。

「(自分がKK共同に移った時から)すでにありましたね。KK共同の成り立ちの頃からあったんじゃないですか。前任者、前々任者、要するにKK共同が出来上がった段階からあるんじゃないかと思いますよ」

彼はこうも付け加えた。

「僕なんかの認識として、ほとんどのマスコミがやってますよ」

「これはもう、(特定の製品を)持ち上げっぱなしだねっていう(他社の)記事、いっぱいありますもんね」

「回答を控えます」

電通と共同通信の両グループは、薬の記事をめぐってカネのやり取りをしてきた。医師の処方が必要な薬の一般読者への宣伝広告は厚労省が規制しているのは前述した通りだ。

ポイントはその規制の対象だ。

政府は2017年2月28日に「医薬品製造販売者に限られない」とする答弁書を閣議決定した。つまり製薬会社だけではなく、広告代理店やメディアも規制の対象になり得るということだ。

電通グループはワセダクロニクルの質問に対して、厚労省の規制について「当社はお答えする立場にはありません」(電通)、「共同通信様の配信について弊社が見解を述べることはできません」(電通PR)と、いずれも回答を避けた。

共同通信グループは、今後も記事の配信をめぐってカネの支払いを受ける行為を続けるのだろうか。見解を問うた。2017年3月24日付の回答はこうだった。

「業務方針に関わりますので、回答を控えます」(共同通信)

「業務方針に関わる案件については回答を控えます」(KK共同)

=つづく。次回、

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