電通の「見直し」と消えた組織

06買われた記事

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シリーズ「買われた記事」

  1. 09 報酬を得た「記事」に医薬品名、「時間差」で広告
  2. 08 共同通信、「対価を伴う一般記事を廃止」
  3. 07 医学論文にも利用されていた
  4. 06 電通の「見直し」と消えた組織
  5. 05 20年前には始まっていた
  1. 04 共同通信からの「おわび」
  2. 03 命にかかわる記事は載りやすい
  3. 02 「国の看板」でビジネス
  4. 01 電通グループからの「成功報酬」

命にかかわる薬の記事をめぐってカネが動いていた。

記事がカネで買われていたことにならないのだろうか。

人の命をどう考えるのか――。広告とは、PRの仕事とは何か。そして、ジャーナリズムとは。

このシリーズを通じ、患者やその家族の皆さんと一緒にこの問いを考えていきたい。

【動画】特集・調査報道ジャーナリズム 「買われた記事」(C)Waseda Chronicle/Makoto Watanabe

このシリーズでワセダクロニクルが報じてきたのは、巨大広告代理店・電通が、報道機関である共同通信を通じて、顧客企業である製薬会社の薬を宣伝してきたという事実である。共同通信が記事を配信すると、電通と共同通信のそれぞれの子会社の間でカネがやりとりされる。その仕組みが長年にわたって続けられてきた

その電通に、動きが出てきた。私たちの報道を受けて、社内規定を見直そうとする動きだ。2017年3月の株主総会で株主からの質問を受け、担当役員が明確に答えた。

その株主総会から3週間がたった。しかし見直しについて、電通側から何も具体的な内容は出てきていない。私たちの取材に対して、電通の回答は「お答えする必要はないと考えます」というものだった。

電通株主「ステマ広告のような手法、断固放棄を」

電通本社ビルで行われていた窓の清掃作業=2017年4月14日午前10時11分、東京都港区東新橋1丁目(C)Waseda Chronicle/Makoto Watanabe

2017年3月30日、電通の株主総会が開かれた。場所は東京都中央区銀座8丁目にあるイベントホールだ。電通本社のすぐそばにある。531人の株主が集まった。14人の株主が質問し、午前10時から始まった株主総会は過去最長の3時間25分に及んだ

総会に出席した複数の株主によると、総会が終盤を迎えたころ、演壇に向かって右側の前列に座った男性が手を上げた。男性はスタンドマイクの前に立ち、「もう一問はワセダクロニクルで報道された問題です」といった。

「今年はトランプ政権の影響で、フェイクニュースという言葉が流行語になり、日本でも新聞・テレビ等、旧来型のマスメディアの信頼が揺らいでいます」

「しかしこれらマスメディアは今もなお、電通の主要マーケットであり、マスメディアの信用失墜は電通の信用失墜と衰退ともいい換えることもできる。報道の自殺行為、電通の自殺行為ともなるステマ広告のような手法は断固放棄すべきと考えます」

「まずワセダクロニクルで報じられた問題の事実認否と、他にも報道記事の偽装は行われているのか。行われているのなら、今後はどうするのかという点についてお答え願いたい」

電通役員「広告か記事か読者混乱、規定見直す」

この男性株主は、ワセダクロニクルの報道が真実なのか誤りなのか、それをまず尋ねている。

それに対し、電通の高田佳夫・代表取締役専務執行役員が回答に立った。高田専務の回答を、入手した録音記録から再現する。

「取締役専務執行役員の高田でございます。ワセダクロニクルのPR(発言通り)に関しましては、私どもの関連する会社である電通PRからパブリシティということでお願いして展開しました。

ただご指摘のように、これは読者の方にとっては、広告なのか、記事なのかという、なかなか線引きは難しいというか、感覚が難しく、混乱する場合もある、というご指摘も受けて、新聞だけではなくて、テレビも含めて各メディアの担当が集まり、電通の中での社内規定をもう一回見直そうと。パブリシティに関しては。例えばどこまでが記事で、どこまでが広告なのか。

例えば、パブリシティの場合にはですね、ちゃんと情報提供主の広告主さまの明示を必ずしてということのルールを、もう一回検討してやろうというところまで踏み込んでやろうというふうに考えておりますので、きちんと我々自身もですね、メディアの方はルールを作ってますけれども、私ども自身もルールを作って対応していきたいと思っております」

【動画】電通株主総会での高田専務の発言(C)Waseda Chronicle/Makoto Watanabe

男性株主の質問のもっとも重要なポイントである「ワセダクロニクルで報じられた問題の事実認否」と「他にも報道記事の偽装が行われているのか」という点には一切答えてない。

ただ電通は、社内規定を見直し、何らかの社内ルールを作ろうとしていることは読み取れる。

社内規定を見直すという具体的な中身はなにかーー。

私たちはこの疑問を電通に尋ねた。電通の広報窓口の回答は「お答えする必要はないと考えます」だった

共同労組が団交、事実関係や見解を質し「調査結果の公表を」

電通が社内規定の見直しを表明したのに対して、共同通信は今後の方針について沈黙している。配信した記事が薬をめぐるカネがらみの記事だったことについての認識を問うワセダクロニクルの質問に対して、共同通信の河原仁志・総務局長は「社の業務方針に関わりますので、回答を控えます」としている

一線の記者や社員たちはどう思っているのだろうか。共同通信労働組合に尋ねてみることにした。ワセダクロニクルの報道に関連した会社側とのやりとりについて以下のように回答している

「社の経営を監視する立場から、数回にわたり団体交渉の場で、株式会社共同通信社(KK共同)への対価支払いを伴う一般社団法人共同通信社(共同通信)の一般記事配信をめぐる事実関係や社の見解を質し、徹底した調査の実施と迅速な調査結果の公表を求めました」

共同通信は電通の株主総会の記事を配信していた。その記事では、電通で社内規定の見直しが始まったことについては触れていなかった

電通の本社ビルのすぐ近くにある共同通信の本社ビル(汐留メディアタワー)=2017年4月14日午前10時11分、東京都港区東新橋1丁目(C)Waseda Chronicle/Makoto Watanabe

電通PRが事務局の組織、解散

電通が「社内規定の見直し」を株式総会の場で表明したあと、私たちは「健康日本21推進フォーラム」がどうなっているかを調べにかかった。

電通PRが、親会社である電通の顧客企業の製品を宣伝するために利用していたのが、「健康日本21推進フォーラム」だ。電通PR自身が事務局となって発足した団体で、医療専門家や有識者が理事となっている。

電通PRは、「健康日本21推進フォーラム」の調査報告をもとに報道用資料をつくり、共同通信がその資料をもとにした記事を配信した後、共同通信の100%子会社のKK共同にカネを払っていた。そのことは、シリーズ第2回「『国の看板』でビジネス」 で詳しく報じた。

電通PRの社内リポート。国の施策「健康日本21」を「うまく使っている」調査事例が紹介されている。その一つが抗凝固薬の服用者に関する調査だった。

電通PRは2017年1月・2016年12月合併号の社内リポートで、「健康関連調査にひと工夫を 国民健康運動『健康日本21』の活用を」と題し、自らが事務局を務める「健康日本21推進フォーラム」の活用を、こう社員に呼びかけた。

「調査結果を見て、自社製品(顧客企業)が活用されるようになることを狙います」

「調査結果を発信する際に、有識者のコメントがあると、報道されやすくなります。メディアにとって有識者のコメントはそのまま採用しやすいからです」

ここからは、これからも「健康日本21推進フォーラム」の調査を積極的に活用しようとする姿勢がうかがえる。

電通の株主総会から1週間後の2017年4月6日、「健康日本21推進フォーラム」をインターネット上で検索した。

ん? アクセスできない。

おかしい。ホームページ が消えている。

過去の報道用資料も、タイトルは残っているものの、「ページが機能していません」という表示が出るだけだ。

「健康日本21推進フォーラム」のウェブページが開けなかった

私たちは、事務局の電通PRに「健康日本21推進フォーラムのホームページが消えてしまったのですが、それはなぜですか」との質問状を出した。同時に「健康日本21推進フォーラム」の事務局にも出向いて説明をもとめることにした。

「健康日本21推進フォーラム」の事務局は、電通PRから歩いて5分ほど、中央区築地のビルの7階にある。2017年4月14日午前に事務局を訪ねた。1階の郵便受けには「健康日本21推進フォーラム」のラベルがまだ貼ってあった。

7階に上がった。ドアフォンを押すと女性が出てきた。こちらの身分を名乗り、「健康日本21推進フォーラム」のことを聞きたいと伝える。女性は「フォーラムの事務局はここにはありません」と答えた。事務局長の白砂善之氏とも連絡が取れないという。

電通PRから、「健康日本21推進フォーラム」のホームページ閉鎖についての質問状に対する回答がメールで届いた。

「本年(2017年)3月に行われました同フォーラム(健康日本21推進フォーラム)理事会および総会にて解散が決議されたことによります」

なぜ解散したのかの理由はなかった。こうなると直接、事務局の電通PRに当たるしかない。

解散理由は「運営費と理事の高齢化」

電通PRは、築地市場のすぐ近くのビルにある。受付は7階。しかし受付の担当者はおらず、訪問者が内線電話で目的の部署に電話するシステムになっている。広報担当者に電話をかけた。担当者は不在だった。

次の瞬間、偶然の出来事が起きた。「健康日本21推進フォーラム」の事務局長だった白砂善之氏が、エレベーターから出てきたのだ。

「あ、白砂さん!」

声をかけた。エレベーターホールで「健康日本21推進フォーラム」の解散について話を聞くことができた。

ーー「健康日本21推進フォーラム」はなぜ解散したのですか?

「会員が全然集まらなくて、運営費が回らないんですよ」

「理事の人たちも高齢なので、次に誰かにかわるのであればいいけど(後任がいないので)終了しましょうということになりました」

――急な解散の原因は、ワセダクロニクルの報道が原因だったのではないですか。

「いや、報道のせいではありません」。そう話した白砂氏だったが、「先生(フォーラム理事長の高久史麿・日本医学会会長)は、たぶんあれでほんとに嫌になっちゃった。理事長をやっていることを忘れているっていうことが恥ずかしいという思いを持ってまして」とも語った。

高久会長は私たちの取材に対して最初のうちは「理事長はもうやってないです」と答えていた。私たちは質問を重ねるなかで、電通グループが「健康日本21推進フォーラム」の報道用資料を製薬会社の宣伝に利用し、その中で高久会長の名前を使っていることを指摘した。彼は憤った

「宣伝のために僕の名前を勝手に使うのは迷惑」

「理事長をやめたい」

「電通はひどい」

このこともシリーズの第2回で詳しく報じた。

高久会長にも話を聞こうと日本医学会に電話をしたが、事務局の女性が「おつなぎできないのですが」と取材に応じようとしなかった

東京都文京区にある日本医学会を訪ねることにした。

2017年4月17日朝、日本医学会前で待っていると、高久会長が午前10時前に出勤してきた。高久会長はうつむきながら「文書で回答します」「事務局に聞いてください」と足早に医学会のビルに入っていった。

高久会長の文書回答は、その日のうちに届いた。そこにはこうあった。

「国民の健康に寄与する情報を発信していく,という当初の目的を達成できたものと考え、2017年3月末日をもって解散することに決定しました」

バイエル社員が内部告発

電通は株主総会で、社内規定の見直しを表明した。しかしその見直しの具体的な内容については「答える必要はない」との態度だった。一方で、子会社が事務局を務める「健康日本21推進フォーラム」は、株主総会の翌日に解散した。何かが動き始めている。

共同通信が配信した問題の記事作成のもとになったのが、「健康日本21推進フォーラム」がつくった調査報告だ。顧客のバイエル薬品の抗凝固薬を宣伝するため、電通PRが「健康日本21推進フォーラム」を使って報道用資料をつくった。それを下敷きにした記事を共同通信が配信した後に、カネが動いたのだ。抗凝固薬とは血をサラサラにして脳梗塞を予防する薬だ。

そのバイエル薬品の抗凝固薬「イグザレルト」の問題が、思わぬところに飛び火した。バイエルの社員たちが宮崎県内の医院で、患者のカルテを調べていたことが社員の内部告発によって明るみに出たのだ。

私たちは宮崎県に行くことにした。

=つづく。次回、

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