国の審議会にも注入される驚きの製薬マネー

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谷本 哲也  (ワセダクロニクル コラムニスト / 内科医)

 

製薬会社が作った薬、医薬品が、どうやって医療現場まで届くか、ご存知だろうか。工場で作って、病院へ配送する、という話ではない。そもそもの、作った薬を患者で使うことが公的に認められるまでの、その手続きの話のことだ。これは薬事規制と呼ばれ、厚生労働省が管轄する重要な業務の一つである。

一般国民にはかなり縁遠い話だが、製薬会社にとっては、売上に直結する死活事項だ。薬事規制は薬の販売のもろもろに関わるため、担当する行政組織は製薬会社に対して絶大な権威を持っている。今回、マネーデータベース「製薬会社と医師」を用い、薬事規制に関わる審議会の委員をチェックしてみた。すると、案の定というべきか、多額の製薬マネーが注入されている実態が明らかになった。

薬とはそもそも何か

製薬会社が新しい薬の候補物を作ったからといって、病院にすぐさま売りつけることは出来ない。薬と称する物質が、本当に人間に使えるのか。使えるとしたら、どんな病状のときに使うのか。どれくらいの量を、どうやって患者に投与するのか。使ったあと、どんな副作用に注意すればいいのか。それらの問題をきちんと明らかにしなければ、薬とは認めてもらえないのだ。

薬とは何か。その素性の基本は、毒物だと思っておいた方がいい。間違った使い方をすれば、とんでもない副作用でつらい目にあったり、薬を使ったせいでかえって寿命を縮めたりすることもある。それどころか、正しい使い方をしたときですら、命の危険が生じることも決して珍しくはない。

また、人類の長い歴史の中では、実際は何の効果もない代物が、どんな病気にも効く魔法の万能薬、長寿の秘薬として使われた伝説や神話が数多くある。近代的な薬が量産されるようになった第二次世界大戦後から、バイオテクノロジーの発達した21世紀の現代になっても、どんな物質が薬として本当に使えるのか、その品定めをするのは容易ではない。現代でも、効果の怪しい健康食品、代替医療、ニセモノの薬は蔓延している。

規制当局の絶大な権限

このため、先進国を中心に、製薬会社を監督する、権威ある規制当局と呼ばれる組織が作られている。その組織が、薬の候補を評価し、審査を経て医薬品としての承認を与え、販売を許可する仕組みが整えられてきた。規制当局は、海外では米国食品医薬品局(US Food and Drug Administration, US FDA)、欧州医薬品庁(European Medicines Agency, EMA)などがあり、日本では厚生労働省と、その関連組織である独立行政法人医薬品医療機器総合機構(Pharmaceutical and Medical Devices Agency, PMDA)が主にその役割を担当している。

新しい薬を開発しようとする製薬会社は、細胞や動物の実験段階を経て、治験と言い習わされる人間を対象にした発売前の臨床試験を行う。そして、実際に人体で用いられた場合のデータを集め分析しなければならない。それらの膨大なデータを収集した後、第三者機関である規制当局に提出し、薬の候補物質が本当の薬であることを証明する。

その手続きを医薬品の申請と承認と呼び、もろもろのハードルを乗り越えれば、晴れて製造販売することが認められ、製薬会社が発売する正式な商品として薬が流通することになる。ちょうど、人間が小学校から大学を経て、社会人として就職する過程をアナロジーとして考えてもらえばいいだろう。

途上国のように、先進国で認められた薬であれば、そのまま自国での販売を受け入れる国もある。しかし、日本では、欧米諸国が認めた薬であっても、厚生労働省の承認を経なければ原則として発売することは出来ない。その逆も真で、厚生労働省が認めた薬でも、欧米の規制当局が認めなければ現地での発売は出来ない。日本で活動する製薬会社にとって厚生労働省は、その命運を左右する強力な権限を持っているのだ。

医薬品の承認に関わる国の審議会

その背景を理解して頂いた上で、本題の医薬品の承認と利益相反の話に入る。日本では、薬のデータのチェックをPMDAが実施し、客観的かつ公平な意見を医薬品の「審査報告書」として厚生労働省に提出する。そして、厚生労働省で、薬として承認出来るかどうかの判断が行われる。その判断を行う学識経験のある専門家の集団が、厚生労働大臣が任命する「薬事・食品衛生審議会」だ。

この審議会は、医薬品の使われ方に関して国のお墨付きを与える、高い公益性を持つ組織だ。任命された委員の名簿は、非常勤の国家公務員として、厚生労働省のウェブサイトで全て公開されている。そこで、マネーデータベース「製薬会社と医師」を用い、二つの公開情報を照合し、製薬マネーがどれくらい委員にわたっているか、具体的な情報を確認してみることにした。

製薬会社は、医師への謝金情報を各社バラバラに公開していたものの、それを集めて回り全容を把握するのは、事実上ほとんど不可能に近かった。ところが、このマネーデータベースの完成により、これまで知ることが出来なかった情報を、いとも簡単に誰もが入手出来るようになった。実際、本稿で紹介する知見も、診療のスキマ時間に少しキーボードを叩いただけで、1時間もかからずに1人で集計したデータだ。

対象としたのは、新薬の承認の意思決定に大きく関わる、薬事・食品衛生審議会の委員のべ111名だ。複数の会に名を連ねる委員もいるので、のべ人数としている。PMDAが作成した審査報告書を最初にチェックする、医薬品第一部会の21名、医薬品第二部会の21名、再生医療等製品・生物由来技術部会の17名、そしてその上部組織の薬事分科会の22名、最後に最上位の総会30名。第一部会、第二部会、再生医療・生物部会は、担当する薬の種類によって分けられている。

審議会委員へ流れ込む製薬マネー: 最高額は約1,097万円

驚いたのは、製薬マネーの金額の大きさだ。お金を受け取っていたのは、第一部会では21名中10名で最高額約592万円=図1、第二部会では21名中14名で最高額約1,086万円=図2、再生医療・生物部会では17名中5名で最高額約104万円=図3、薬事分科会では22名中11名で最高額約359万円=図4、そして総会では30名中13名で最高額約1,097万円=図5=だ。公的職務を担当する政府の委員の一部が、この額の副収入を2016年度単年だけで受け取っていたことになる。お金の出どころは、利益相反の可能性がある製薬会社からだ。一般国民の感覚と乖離していないだろうか。

興味深いのは、薬の種類別で謝金額を考えると、まだ海のものとも山のものともつかない薬を扱う再生医療・生物部会は少額、落ち目の高血圧薬などを扱う第一部会は中程度の額、高額は市場の伸びが期待されている抗がん剤などを扱う第二部会だったことだ。製薬会社がシビアに値踏みしてお金を配っている実態が、この違いにも反映されている気がしてならない。

政府の委員に任命されるだけあって、そのほとんどは大学教授、部長、病院長など、医療機関の重鎮だ。薬学部など医師以外の委員も多いが、お金をもらったのはやはり医師の委員が中心だ。委員たちは権威、権力もさることながら、本業の給与収入の水準も高い。医師で大学教授や病院長であれば、本業だけで2,000万円前後の給与収入を稼いでいてもおかしくはない。それに上乗せされる製薬マネーの副業収入となる。

李下に冠を正さず

そして、今回明らかにした製薬マネーは、氷山の一角だ。個人に製薬会社から直接わたされる講師謝金やコンサルタント料、原稿料以外にも、研究費や寄付金、マスメディアや研究組織など第三者を迂回させた他の種類の製薬マネーも少なくないと聞いている。

もちろん、専門性の高い、余人を持って代え難いほどの委員なので、製薬会社と利益相反があるからといって、審議のためには欠かせない、という考えはあるのかもしれない。しかし、審議が滞るほどの重要人物なら、なおさら製薬会社との利益相反には注意が必要に思える。また、実際の方向性を決めているのは役人なので、お飾りの委員がいくらもらっていても実害はない、見かけ上の権威付けさえ出来れば、審議会は単なる儀式なので利益相反があっても構わない、という見方もある。それならそれで、李下に冠を正さず、という委員の選び方は出来ないのだろうか。

審議会の運営では、個別の企業から年度あたり500万円を超えたら審議に参加できない、50万円から500万円以下なら意見を言えるが議決には参加できない、という独自のルールが設けられている(*1)。このルールがあるから、利益相反は問題ない、という主張もあるだろう。しかし、一般の感覚からすれば、500万円などの額の設定も、かなり大きいように思う。

この状況に人間のアナロジーを使えば、入社試験の面接担当者に、うちの息子や娘をよろしく、と言って親からお金が渡っているようなものだ。担当者がお金をもらっていても、公平・公正に面接で審査を行うのかもしれない。大学をちゃんと卒業しているのだから、担当者の裁量が就職に影響することはないのかもしれない。ただ、医薬品の審議では、国を舞台にそれを演じていることになる。

製薬マネーと公益性

実は、2015年にも製薬会社との関係が問題になり、薬事・食品衛生審議会分科会の委員8人が辞任する事件が起こっている(*2)。関連企業の代表取締役、顧問、アドバイザーなどを勤め、定期収入をもらっていたことが問題視されたためだ。これも、当時朝日新聞にいた渡辺周氏(現ワセダクロニクル編集長)が、製薬マネーを朝刊1面でスクープ(*3)したことがきっかけだった。事件を受け、当時の厚生労働大臣が、対策を取ることを表明していた。

しかし、マネーデータベース「製薬会社と医師」から明らかなように、朝三暮四の対策に過ぎなかったようだ。講演会の謝金が中心とはいえ、毎週のように行い、平均的な会社員の数倍以上を稼ぎだす活動は、不定期収入だから利益相反上の懸念はない、と果たして言い切れるのだろうか。

また、医者の世界では、多数の製薬会社から数十万円、数百万円をバランスよく受け取る、という慣習が蔓延していることもマネーデータベースで明らかになった。特定の製薬会社に肩入れしていないから、それでよし、という詭弁も不毛ではないだろうか。製薬会社と医師、双方の業界をあげての癒着は、過剰処方を誘発する素地になっている。これでは、薬価を下げて医療費抑制に取り組んでも、空疎な弥縫策にしかならないことは明白だ。産官学の自浄作用を期待するより、透明性を高める方がもっと有効性を期待できる。

能力を活かし、たくさんお金を稼ぐことを非難するつもりは毛頭ない。しかし、審議会の委員は、国民皆保険のもとで、国全体での薬の使い方を決める、公益性が特に高い仕事のはずだ。飲んだら乗るな、乗るなら飲むな、の標語ではないが、製薬会社から多額の資金提供を受けるなら委員に任命しない、資金提供を受けるなら自分から委員は辞退する、という見識を求めるのは筋違いだろうか。

判断力に影響が出かねない製薬企業からの多額の資金提供を、公益性の高い医薬品の承認の業務において、どこまで正当化出来るのか。それが私の問いである。

本日からコラム「二階の硝子窓」を始めます。ワセダクロニクルのコラムニストが担当します。不定期の掲載です。

【脚注】

*1 薬事・食品衛生審議会薬事分科会「審議参加に関する遵守事項」2008年3月24日、厚生労働省ウェブページ(2019年2月7日取得、https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/03/dl/s0324-9f.pdf)。

*2 厚生労働省「薬事・食品衛生審議会 薬事分科会における審議参加の取扱い等について」2015年6月5日、厚労省ウェブページ(2019年2月6日取得、https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000088142.html)。

*3 渡辺周・沢木香織「医師に謝礼、1000万円超184人 製薬会社、講演料など」朝日新聞2015年4月1日付朝刊1頁。

◉谷本哲也(たにもと・てつや): 内科医。1972年生まれ、鳥取県出身。MRIC Global 編集委員。ナビタスクリニック立川(東京都立川市)、ときわ会常磐病院(福島県いわき市)、 霞クリニック・株式会社エムネス(広島県広島市)、 特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所所属。日本内科学会総合内科専門医日本血液学会専門医・指導医。1997年九州大学医学部卒業後、内科医として宮崎県立宮崎病院、国立がんセンター中央病院、松山赤十字病院、九州大学病院、鳥取大学病院等で勤務。2007~2012年。独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)審査専門員。2012年より分野横断的に英文医学誌への掲載を目指す谷本勉強会を開始。その成果を『NEJM(ニューイングランド医学誌)』『JAMA(米国医師会雑誌)』『ランセット』『ネイチャー』等に発表している。

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