【二階の硝子窓】人権侵害に「加担」しつづける日本の援助 ーー インドネシアで事業反対の声をあげる住民が「冤罪」に

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刑務所での生活を強いられたサウィンさん、スクマさん、ナントさん(2018年12月)

波多江 秀枝(国際環境NGO FoE Japan 委託研究員)

 

インドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画(100万キロワット)。そこで暮らす地元の農民たちが建設中止を求めています。ところが、いま、現地では農民たちに対する弾圧とも言える人権侵害が起きています。この事業計画は日本の国際協力機構(JICA)が税金で援助を続けています。私たちのお金が使われているのです。

今年4月、地元で反対運動をするメンバーらが来日しました。そして、そのなかの一人、サウィンさん(50歳)は東京・永田町の参議院議員会館で開催された集会でこう訴えました。

「私は事業に反対したというだけで、冤罪で5ヶ月間、刑務所に入れられ、自由を奪われました。私は農業で家族の生活を支えてきましたが、私が家にいない間、妻や子どもには経済的にも精神的にも非常に負担がかかりました。この間の補償を一体誰がしてくれるというのでしょうか。インドネシア政府でしょうか。日本政府でしょうか」

サウィンさんは今年2月に刑期満了で釈放されたばかりでした。

彼は集まった聴衆に向けて、話の最後に願いを込めた口調で伝えました。「日本の皆さん、どうかこの事業を止めてください」

環境省記者クラブでの記者会見で話をするサウィンさんとJATAYUメンバー(2019年4月)

サウィンさんら地元の農民たちの最大の懸念は、生活の糧がなくなること。同事業では、東京ドーム約59個分の275.4ヘクタールの土地が使われる予定で、1年に16トン(二期作)のコメが収穫できる生産性の高い土地を含め、広大な農地が奪われることになります。紫タマネギ、トウガラシ、キュウリ、ナス、トマト、マメ類などさまざまな作物も栽培できなくなってしまいます。また、季節により、沿岸で小エビ獲りに勤しんできましたが、同事業の関連施設である埠頭が建設されると、漁場そのものを失うことになります。

(写真上)沿岸での小エビ獲り(2018年12月)、(写真下)事業予定地に広がる水田や畑(2019年3月)

健康被害も心配の種です。同拡張計画の隣接地では、中国の資金で建てられた既存の石炭火力発電所が2010年から稼働していますが、周りのココヤシの木は枯れ、呼吸器系疾患で苦しんでいる子どもも見られます。沿岸で獲れる小エビの量も減ってしまいました。JICAが援助する拡張計画は、既存の発電所より規模も大きく、「健康被害などが悪化するのでは」と、住民の懸念は尽きません。

2010年以降、枯れたココヤシの木(2017年3月)

インドラマユの住民は、この事業から自分たちの、そして、子どもや孫など将来世代の生活を守りたいと住民ネットワークJATAYU(Jaringan Tanpa Asap Batubara Indramayu:インドラマユから石炭の煙をなくすためのネットワーク)を2015年に立ち上げました。それから3年間、地元の事業予定地からインドラマユ県議会、西ジャワ州政府、そして首都ジャカルタの大統領府前まで、インドネシアのあらゆる場所で同拡張計画の中止を訴えてきました。

(写真上)インドラマユ県議会前でのJATAYUによる抗議アクション(2018年2月)、(写真下)大統領府前でのJATAYUによる抗議アクション(2017年1月)

2017年7月には、JATAYUのメンバー3人が原告となって法廷闘争も開始。同拡張計画の環境許認可がインドラマユ県知事により不当に発行されたとして、同許認可の取消しを行政裁判所に求めました。2017年12月6日にバンドン地裁で出された判決は住民勝訴。JATAYUのメンバーは、この勝利に歓喜しました。

バンドン地裁での勝訴判決に歓喜するJATAYUメンバー(2017年12月)

しかし、その後、JATAYUメンバーへの弾圧とも言える人権侵害が起こることになります。

本稿の冒頭で紹介したサウィンさんたちは、2017年12月14日の夕方、住民勝訴を仲間と祝い、村にインドネシア国旗を掲げました。しかし、その翌日、サウィンさんたちの合意なしにその国旗が誰かに持ち去られてしまいます。その後、12月17日の真夜中、午前1時にサウィンさんたち3人の自宅へ突然、長い銃を装備した警官5人がやってきたのです。まるで「テロリスト扱い」をする警官に向かって理由を尋ねると、国旗を上下逆に掲げたという『国旗侮辱罪』で逮捕するとのこと。3人はその場で手錠をかけられ、車に乗せられ、県警に連行されました。

現地NGOや弁護士の交渉により、3人は幸い同日の夜に保釈されましたが、定期的な警察への報告を課せられました。しかし、それで終わりではありませんでした。その後、2018年9月になり、また、同じ『国旗侮辱罪』で3人が警察に召喚されたのです。すぐに勾留され、刑務所での生活が始まりました。

2018年10月23日からほぼ毎週公判が開かれ、12月27日には、サウィンさんともう1人に5ヶ月、残りの1人に6ヶ月の実刑が言い渡されました。3人は罪状を否認し、また、国旗を正しい向きで掲げた写真や隣人の証言もありましたが、サウィンさんたちの「正義」は認められませんでした。

 

2017年12月14日夕方に住民勝訴を祝い、国旗を掲げるサウィンさん(2017年12月)

こうして、無実の罪を着せられ、弾圧の対象となったJATAYUのメンバーやその家族らは、家族としての日常生活を奪われるとともに、経済的にも一家の収入に打撃を受け、心身両面で大きな負担を抱えることとなりました。また、JATAYUの他のメンバーにとっても、継続的な公判の準備・参加は、時間的にも経済的にも負担を強いられるものでした。このように、インドネシア政府は弾圧の一環として、住民に無実の罪を着せることで、現地住民の反対運動の勢いや力を削ごうとしているのです。

日本の援助の現場で起きているこの深刻な人権侵害について、インドネシア政府に資金を供与し続けているJICAやJICAの監督官庁である外務省は、こう回答しています。

「まだ基本設計などに対するエンジニアリング・サービス借款しか供与していないので、同事業の環境社会問題については何も言えない。したがって、基本設計への借款供与は続ける。インドネシア政府が本体の建設工事に対する円借款の要請をしてくれば、人権を含む環境社会問題の状況を確認し、本体の建設工事への円借款を供与するか否か判断する」

基本設計だろうと建設工事だろうと、同事業に関係する資金を税金から投じていることに変わりはありません。この状況下で、日本から資金が供与され続ければ、インドネシア政府側は、「日本は住民からの人権侵害の訴えを問題に思っておらず、現状を容認している」と受け取るでしょう。それは、インドネシア政府側の住民に対する人権侵害に日本が「加担」しているのと同じです。

「日本の皆さん、どうかこの事業を止めてください」――サウィンさんたちのこの訴えは、「日本の資金援助がなければ、基本設計も建設工事も進まないし、自分が刑務所に入れられることもなかった」という核心を突くものです。インドラマユの農民が守ろうとしている生活を日本の援助で壊さぬよう、私たち一人一人が日本政府を監視していくことが求められています。

外務省前でインドラマユ石炭火力への融資停止を求めるJATAYUメンバー(2019年4月)

写真はFoE Japanとインドネシア環境フォーラム(WALHI)から提供

コラム「二階の硝子窓」はワセダクロニクルのコラムニストが担当します。不定期の掲載です。

波多江秀枝 (はたえ・ほづえ)  国際環境NGO FoE Japan委託研究員。 1978年生まれ。島根県江津市の出身。2001年中央大学法学部政治学科卒。平和学の考え方に感化され、「自分の見えないところで誰かが被害にあっているかもしれない」という思いから、自分が大きい組織の歯車の一つになることに疑問をもつ。就職活動はせず、2000年からFoE Japanの「開発金融と環境チーム」でボランティアを始める。その後、インターンを経て、2001年から常勤スタッフとして、フィリピン各地で日本の官民が関わる大型水力発電ダムや鉱山開発などの現場を回り、現地の住民・団体と環境社会・人権問題の解決に取り組み続けている。 2007年11月から同委託研究員。2014年からは、インドネシアでも石炭火力発電事業の問題などに取り組む。モットーは現場主義で、「現地の住民が何よりの先生。住民の皆さんから、いつも多くを学んでいる」。

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