日本医学会が動いた ── 隠された乳がんマネー(12)

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ワセダクロニクルは、抗乳がん剤「ゼローダ」の臨床試験の資金の出所をめぐり、試験を担当した京大病院乳腺外科長の戸井雅和に取材した。京大病院はその取材に抗議し、「今度は警察を呼ぶ」と警告してきた。

戸井は国際医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」に載った臨床試験の論文の責任者だ。中外製薬の紐付きの資金が臨床試験に入っていたのに、論文には明記されていなかった。戸井には説明責任がある。

京大病院はなぜ、戸井に説明をするよう促すのでなく、取材した私たちに抗議してきたのだろう。

京都大学医学部付属病院外来棟の正面玄関。=2020年1月27日午後5時3分、京都市左京区聖護院川原町 (C)Waseda Chronicle

「迂回献金の温床」

今回の問題を告発したのは、乳腺外科医の尾崎章彦(34)だ。2017年9月15日、「ゼローダ」に関する中外製薬と臨床試験のカネの流れについての論文を学術誌『サイエンス・アンド・エンジニアリング・エシックス』(*1)で発表した。その内容は戸井らの論文には中外製薬からの資金が正確に開示されていない、という趣旨だ。

さらに9日後の9月24日、尾崎は日本医学会にメールで直訴した。

「臨床試験が施行されたのと同じ時期に、3億円を超える資金が、中外製薬から本試験に関わった医師に対して提供された可能性があります」

「このような間接的な利益供与は、製薬企業による迂回献金やステルスマーケティングの温床となってしまう可能性があり、今後適切な規制が必要と考えています」

ステルスマーケティングとは、実際は宣伝活動なのにそのことを消費者に隠して宣伝することだ。今回の場合、乳がん患者が知らないところで、臨床試験が中外製薬による抗がん剤の宣伝の温床になってしまうのではないかという危惧(きぐ)を尾崎は指摘した。

日本医学会長の指示

日本医学会からは11日後の10月5日、尾崎に返信があった。当時、利益相反委員長を務めていた曽根三郎からだ。曽根は徳島大学の名誉教授で呼吸内科医。日本医学会では、製薬会社と医師との利害関係の透明化を推進する役割だった。

 曽根は尾崎に、日本医学会長の門田守人(大阪大名誉教授・消化器外科医)から、今回の件に対応するよう指示があったことを伝えた。

「即レス」の全国医学部長病院長会議

さらに曽根は尾崎にアドバイスする。

全国医学部長病院長会議に同じ質問をしてはどうか」

全国医学部長病院長会議とは、全国80大学の医学部長と付属病院長がメンバーになっており、医療問題についての提言を省庁などにする一般社団法人だ。その中には「臨床研究・利益相反検討委員会」という専門委員会があり、製薬会社と臨床試験の利害問題に対応している。

尾崎は曽根のアドバイスを受け、翌10月6日、全国医学部長病院長会議にメールする。相手は当時の会長、新井一。脳神経外科医で、順天堂大学の学長だ。

新井はその日のうちに返信してきた。「貴重な情報をありがとうございます」とあった。

京大に調査依頼

2017年11月14日、まず日本医学会が動いた。全国医学部長病院長会議に、尾崎の指摘について調べるように要請する。

それを受けて12月1日、同会議が京都大学医学部と付属病院に対して調査を要請した。

京大側の調査の結論は、1年後に出た。だがそこには、ある欠落があった。

【動画】戸井雅和・京大教授インタビュー

(敬称略)

=つづく

【脚注】

*1 Ozaki, Akihiko, 2017, “Conflict of Interest and the CREATE-X Trial in the New England Journal of Medicine,” Science and Engineering Ethics, (Retrieved March 11, 2020).

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2020.03.12「日本医学会が動いた

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