京大調査の穴── 隠された乳がんマネー(13)

  • facebook
  • twitter
  • はてなブックマーク
  • あなたの支援で生まれた記事が、暮らしや社会を変えていきます。忖度なしで真実を掘り起こす、それがワセクロです。購読料や広告料もなく、あなたの支援が頼りです。ご支援はこちらから。

(読むために必要な時間) 5分

中外製薬の抗がん剤「ゼローダ」を使えば、乳がんの手術を受けた後の再発リスクが30%減り、5年後までの死亡率が41%減るーー。

世界最高峰の医学誌「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」(NEJM )に2017年、日韓の患者を対象に抗がん剤の効果を試した臨床試験「CREATE-X」の結果が掲載された。本当ならば、女性の11人に1人がかかるといわれる乳がん患者にとっては朗報だ。

だがこの臨床試験に紐付いて、中外製薬による「裏金」が入っているのではないかと疑った医師がいた。福島県いわき市で勤務する乳腺外科医の尾崎章彦(35)だ。尾崎が着目したのは以下のようなカネの流れだ。

中外製薬→NPO法人「ACRO」→臨床試験を行う医師のグループ

ACROというのは「先端医療研究支援機構」というNPO法人の略称だ。尾崎が中外製薬のホームページで調べただけでも、2012年から2015年にかけてACROに2億3600万円を寄付している。しかし、臨床試験を行った医師たちは、当該の抗がん剤を販売する中外製薬の資金を使ったことを医学誌NEJMで公表していない。

つまり中外製薬と臨床試験を行った医師たちは、ACROを間に入れることによって、臨床試験とは無関係な資金だと装っているという疑惑だ。

尾崎は、製薬会社からの資金で臨床試験を行ったことをきちんと公表するべきだと専門誌に掲載した論文で指摘した。

臨床試験に参加したのは、乳がんの分野では「重鎮」と呼ばれる医師たち。尾崎の上司もいた。だが尾崎は論文を発表するだけではなく、日本医学会にも直訴した。

その結果、日本医学会が動く。NEJMの論文責任者、戸井雅和教授が所属する京都大学が臨床試験と中外製薬の関係について調査することになったのだ。

ところがこの京大調査、大きな「穴」があった。

CREATE-Xと中外製薬の利害関係について調べた京都大学付属病院=京都市左京区、友永翔大撮影(C)Waseda Chronicle

医学部長・病院長連名で「シロ判定」

ここに岩井一宏・京大医学部長と稲垣暢也・医学部付属病院長の連名で、全国医学部長病院長会議の山下英俊会長に出した報告書がある。日付は2018年12月18日付、タイトルは「NEJM掲載論文の利益相反申告疑義について」。尾崎の指摘を受けて京大が、中外製薬の資金と臨床試験について調査した結果だ。

報告書の中の「中外製薬からの資金提供に関する利益相反について」には次のような記述がある。

「ACROとの関係について説明すると、CREATE-X試験(当該の臨床試験)において、中外製薬からACROに提供された寄附金の使途が指定されていた事実は確認できず、また、中外製薬がCREATE-X試験の資金として用いられていることを意図又は期待してACROに寄附金の提供を行ったという事実も確認できなかった」

つまり、中外製薬はACROに資金提供はしたが、その資金が臨床試験に紐づいて使われたわけではないということだ。そして、こう結論づける。

「中外製薬がACROに寄附金を提供したことと、CREATE-X試験で中外製薬の製品が使用されていたこととは、必ずしも関連するものではないと考えられる」

「ACRO」を調べずに何が分かる?

しかし、この調査結果には重大な欠陥があることを「調査の概要」の項で京大は自ら認めている。

「ACROに対しても質問票を送付し、ヒアリングの実施を求めたが、情報提供できる者がいないため回答は差し控えたいとのことであり、回答が得られず、ヒアリングも実現しなかった」

中外製薬と臨床試験の医師グループの間に入り、両者を結び付ける「ACRO」を調べずに、なぜ中外製薬と臨床試験が関連していないと分かるのだろうか?

ACROに情報提供を求めるのが難しいのは理解できる。本シリーズ第6回の「中外製薬が賛同した『幽霊NPO』と消えたホームページ」、第7回の「5億2000万円の横領を警察には届けなかった」で報じたように、ACROは会計を委託した業者から横領に遭ったことが響き休眠状態だ。

しかし尾崎とワセダクロニクルはさらに調べを進めた。ACROの複数の関係者に取材し、証言や物的証拠を集めた。中外製薬の資金が臨床試験に結びついていたことを示すACROの銀行通帳のコピーまで入手した。詳しくは4回の「動かぬ証拠」第5回の「銀行通帳に『チユウガイセイヤク』」を参照してほしい。

再調査の意思なし

再調査をしてはどうか。ワセクロは京大の医学部長と付属病院長あてに、再調査するつもりはあるか質問状を送った。答えはノー。調査はすでに終了しており、今後は問い合わせにも応じない旨の回答がきた。

これで臨床試験は京大調査のお墨付きを得た。2019年10月には乳癌学会の理事会で、臨床試験の「好成績」を受けての中外製薬の「ある依頼」が審議されることになった。

【動画】戸井雅和・京大教授インタビュー

(敬称略)

=つづく

【関連記事】

▽シリーズ「隠された乳がんマネー」

2019.12.07 「清水の舞台」から飛び降りた32歳の医師

2019.12.08 「『京セラの稲盛さん』で警告

2019.12.09 「NPO法人で『ロンダリング』

2019.12.10 「動かぬ証拠

2019.12.11 「銀行通帳に『チユウガイセイヤク』

2020.01.17「中外製薬が賛同した「幽霊NPO」と消えたホームページ

2020.02.19「5億2000万円の横領を警察には届けなかった

2020.02.21「紐が付かない寄付金はない

2020.03.03「戸井医師にご確認を」

2020.03.04「逃げる責任者

2020.03.11「京大病院、『警察』を持ち出す

2020.03.12「日本医学会が動いた

【関連シリーズ】

▼シリーズ「買われた記事

▼シリーズ「検証東大病院 封印した死

▼シリーズ「製薬マネーと医師

【関連データベース】

マネーデータベース「製薬会社と医師

  • あなたの支援で生まれた記事が、暮らしや社会を変えていきます。忖度なしで真実を掘り起こす、それがワセクロです。購読料や広告料もなく、あなたの支援が頼りです。ご支援はこちらから。

一覧へ

  • facebook
  • twitter
  • はてなブックマーク