あなたは一生被疑者として扱われますか? 警察のDNAデータベース化問題に弁護士が警鐘

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ワセダクロニクルは2019年11月17日、シンポジウム「120万件の“真実” あなたのDNAも狙われているーー 警察と『監視社会ニッポン』を問う」(『週刊金曜日』共催)を東京都内で開催した。シンポでは、DNAを警察に採取され、データベースから抹消を求める裁判を起こした原告代理人の川口創弁護士(愛知県弁護士会)が基調講演をした。川口弁護士の報告を紹介する。

講演をする川口創弁護士=2019年11月17日、東京都新宿区西早稲田1丁目 (C) Waseda Chronicle

  • 川口創: かわぐち・はじめ。弁護士(愛知県弁護士会)。1972年埼玉県生まれ。DNAデータ等抹消請求訴訟原告代理人。薬害C型肝炎訴訟弁護団。情報ネットワーク法学会所属。違憲判決を勝ち取ったイラク派兵違憲訴訟の弁護団事務局長を務めた。刑事事件も多くてがけ、無罪判決を3件獲得して『季刊刑事弁護』誌上で最優秀新人賞を受賞。中小企業の支援やNPO支援にもかかわる。主著に『子どもと保育が消えてゆく』。共著に『自衛隊のイラク派兵差止訴訟判決文を読む』『法の番人ーー内閣法制局の矜持』など。趣味はサックス。

警察庁が一元管理

まず、具体的に裁判を起こした件についてご報告します。「犬を探しています」というチラシを名古屋市の天白区内に9枚貼った保育士が、愛知県警天白署から「取り調べ」を受け、指紋、顔写真、DNAデータを採取されました。この件は、当時、「行きすぎた捜査」として全国放送でも報道されました。この保育士はその後、DNAデータなどの削除を求めましたが、削除されたとの報告がなかったので、データの「保管」の違憲性を問う裁判を今年6月提訴しました。同時期に、同じ天白署で同様な事案が発生しています。そちらは「猫」です。「猫を探しています」とのチラシを数枚貼った男性も、天白署から取り調べを受け、指紋、顔写真を撮られました。しかし、この男性は、DNAの採取は拒否しています。

警察庁は2018年末までに、DNAのデータベースに121万人分の情報を登録しています。採取されたDNAデータは最終的に警察庁に送られます。例えば、名古屋市の天白署から愛知県警、そして警察庁に送られ、警察庁が全国のDNAデータを一元管理しているということになっています。

法律なく組織規程で運用

究極の個人情報とされるDNAデータを大がかりに保管しているにもかかわらず、現在、保管についての明確な法律はありません。あるのは、国家公安委員会の規則、つまり組織規程があるだけで、国会で審議して作られた法律はないのです。

そして、この規則によれば、データベースに保管されたDNAの削除は、「死亡した時」「必要がなくなった時」の2点だけで、「捜査が終わったから必要がなくなった」ということにはならず、捜査終了後も、「将来の捜査」のために保管し続けるとしています。

つまり、一度採取されると、これから起こる犯罪の被疑者として照合されつづけるということであり、一生被疑者として扱われることにほかなりません。

冤罪を生む可能性も

DNAデータは、むしろ冤罪を生む可能性があることも指摘せざるを得ません。

「DNAが一致したら犯人だね」となり、反証できなくなるわけですが、現実には、警察の自作自演などの可能性もあるわけです。私自身、何件か刑事事件で無罪判決を取っているのですが、そのうち1件は、「警察の自作自演の可能性を否定できない」として無罪となったものもありました。

DNAが一致するとそれだけで犯人だと決めつけられてしまいますが、たとえば、DNAを採取した唾液などの資料を、押収した衣類などに付着させることで、犯人性を作り上げることも可能なわけですから、科学的にDNAの解析が進んだからといって、冤罪が起きないことではないのです。

でも、警察の側からすると、DNAデータは犯人性特定に決定的な証拠なのですからDNAはできる限り多く入手しておきたい、ということになります。その結果、121万人分、つまり、今では国民の100人に1人のDNAがデータベースに登録されるまでに至りました。

これ以上集めようとすれば、より軽微な犯罪でも採っていこうとなります。

DNA採取月間」でノルマ達成?

警察の方から聞いた話ですが、「DNA採取月間」というのがあるそうです。ノルマ達成のために、軽微な事件を理由にDNAを採る、そのために不当に捜査を行う事態が起こっているのではないでしょうか。

捜査(入手過程)の問題もあります。捜査には、裁判所の令状が必要な強制捜査と、そうではない任意捜査があります。警察は通常、「任意捜査」として、「被疑者から承諾を得た」としてDNAを採取しています。しかし、ろくな説明もせずにDNAを採取しているのが実態です。

採取のやり方自体にもかなりの問題があります。

取り調べでは、指紋・顔写真とDNAデータの3点セットで採られています。今、私たちのプライバーをめぐる問題がどのような状況になっているのかについて、米国の事例を紹介します。

「一度採取されると、これから起こる犯罪の被疑者として照合されつづけるということであり、一生被疑者として扱われる」と話す川口創弁護士=2019年11月17日、東京都新宿区西早稲田1丁目 (C) Waseda Chronicle

米国では「1億人分の顔画像」を捜査で利用

捜査との関係で、私たちの「プライバー」をめぐってどのようなことが問題となっているのでしょうか。ここでは、DNAと一緒に顔写真を撮られていることから、顔認証についての米国の事例を紹介していきます。

米国の会計検査院は2016年5月、米連邦捜査局(FBI)に監査を実施しました。FBI はすでに17の州との間で運転免許証やID カード等の顔画像を入手する契約を結び、1億人分の顔画像を入手していることが判明しました。同じ年の10月には、ジョージタウン大学の調査研究では、米国民の約半数(1億1,700万人)の顔認証データベースがすでに構築され、米国の法執行機関の4分の1がこの顔認証データベースにアクセス可能になっていることが判明しました。シカゴ、ダラス、ロサンゼルスなどの警察機関では、すでにライブの監視カメラを導入して、リアルタイム顔認証が行われています。

監視カメラと顔認証データとシステムとで、個人の行動は筒抜けになっているのです。

「政府の監視から自由に生きる私たちの能力を脅かす」

こうした状況に対して、2017年3月、下院の「監視と政府改革に関する委員会」公聴会が開催されました。そこでポール・ミッチェル下院議員は「(顔認証技術は)合衆国憲法第1修正に抵触する」と指摘しました。

彼は、政治問題について抗議の声を上げた人が特定されないよう保護するだけでなく、有効な令状等に基づく刑事訴追がなされない限り、すべての人物が保護されていなければならない、と主張したのです。監視が、特定の市民に対する圧力に使われてきたことを批判すると同時に、市民全体が監視対象となっているわけですから、「すべての人物が保護されていなければならない」との点は重要です。

このような批判を受けて、サンフランシスコ市監理委員会は、2019年5月、捜査機関による顔認証技術の使用を禁止する条例案を可決しました。同条例の冒頭では、「監視技術は、我々全員のプライバシーを脅かす可能性があり、監視の取り組みは、歴史的に、人種、民族、宗教、国籍、収入、性的指向、政治的見解によって定義されるものを含めて、特定のコミュニティやグループを威圧するために用いられてきた」とし、「顔認証技術が市民の権利や市民の自由を危機にさらす傾向は、その主張されている利益よりもはるかに大きく、その技術は、人種的不正義を悪化させ、政府の監視から自由に生きる私たちの能力を脅かす」と指摘しています。

捜査機関に情報を流す民間企業

ところが、日本はどうでしょう。

顔認証も、DNAデータも、その保管、管理、削除に関する法律もなければ、採取の法律もない。法律的な保護が全くないのです。捜査機関による野放図な状態になっています。

さらに、民間企業はルーズに情報を捜査機関に流している実態も軽視できません。

データが民間企業に集積され、警察に流されている。あるSNSの会社は、捜査機関からの問い合わせがあれば、令状がなくても、個人のSNSでのやりとりの情報を捜査機関に提供しています。

強いられる「模範的な生き方」

 今日ここにおいでの皆さんは、気概のある人が多いですが(笑い)、多くの人は警察に監視されているとなれば、「善良な市民」として模範的な生き方をしなければ、と自己規制を強いることでしょう。政府にとって都合のいい「模範的な生き方」を強いられてしまうことになります。

その結果、自分らしさ、個人の尊厳を押し殺し、「表現の自由」が萎縮し、「結社の自由」も侵され、民主主義の足元が崩されていく危険性があります。「監視社会」とは、自由と民主主義の危機につながるということを押さえておくことがとても大切です。当然、政治的に政権に反対する人たちへの差別を生み出し、弾圧も出てくるでしょう。

「自分らしく生きていくため自分の情報を自分で決定を」

いま、自分の知らないところで私たちの情報がとられ、保管され、活用されている。

ビッグデータやAIが進み、この社会が大きく変容している中で、従来の「プライバシー権」の概念の再構築も急務です。そうしないと、今の「監視社会」に抗えない。

そして、まず、DNAの採取や保管に関する法律を作ることが不可欠です。

しかし、みなさんが関心を持ってもらわないと法律はできないんです。「法律ないのはおかしいよな」と思ってもらわないと。

権力や大企業を私たちが監視していくことも大事ですね。事件が起こると「自分の身の潔白のためにDNAを提供した方が気が楽だわ」という人もいますし、ネットでの買い物も便利です。

しかし、「利便性」や「安全性」というものは、自由とか人権を自ら売り渡していくことでもあります。「利便性」や「安全性」に流されないことです。

自分らしく生きていくためには自分の情報をきちんと自分で決定していくことが必要だ、ということを、かなり意識的にやらないといけないでしょう。

私たちの尊厳と、民主主義の根幹に関わる問題なのですから。

「DNAの採取や保管に関する法律はみなさんが関心を持ってもらわないとできない」と話す川口創弁護士=2019年11月17日、東京都新宿区西早稲田1丁目 (C) Waseda Chronicle

川口創弁護士の講演録は『週刊金曜日』の2019年12月6日号と同20日号でもお読みいただけます。

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