【編集長便り】安倍政権の「慰安婦問題検証」に身構えた朝日社長ーー葬られた原発報道(8)

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高まる「朝日バッシング」に、朝日新聞社長の木村伊量さんは2014年9月3日、「危機管理人」として、常務・大阪本社代表の持田周三さんを東京本社に呼び寄せました。持田さんはただちに吉田調書報道の編集幹部4人に会います。その3日後、東京都品川区にある社長の木村さんが暮らしていたマンションを訪れました。

「木村さん、どうもね、吉田調書は大波になりそうです」

木村さんは驚きました。

木村さんは吉田調書報道が紙面に出たその年の5月、「これは超ド級のスクープだ」と喜び、編集担当役員の杉浦信之さんに電話して新聞協会賞応募を打診していたほどだったからです。

そんな木村さんに、持田さんは「慰安婦報道」を持ち出します。

「すでに慰安婦報道が問題になっている。そこへ今度のこと(吉田調書報道)で、大波をかぶると、ひょっとしたら木村さんの進退問題になるでしょう」

木村さんにとって、「慰安婦報道」は自身の進退に直結する問題でした。

証言「うそ」でも謝罪しないと決めたのは

2014年当時、「慰安婦報道」は朝日新聞社にとっての懸案事項として覆いかぶさっていました。

慰安婦問題について朝日新聞社は、関係者を名乗る吉田清治氏(故人)の「韓国の済州島で200人の若い朝鮮人女性を狩り出した」という証言を記事にしていました。1982年9月2日付の大阪本社版朝刊社会面が初報で、合わせて16回、証言が記事になっています。

その後、吉田氏の証言の信ぴょう性が疑われるようになります。しかし朝日新聞社は証言の真偽を判断しないまま、放置してきました。

1993年、河野洋平官房長官が元慰安婦に「おわびと反省」を示した政府声明を、談話の形で発表しました。いわゆる「河野談話」です。ところが2012年に民主党政権から第2次安倍政権に代わりました。朝日新聞社内に不安が広がります。「河野談話を見直すのでないか」「吉田証言を元にした報道について、朝日の社長が証人喚問で追及されるのではないか」と考えたからです。2014年には安倍政権が慰安婦問題を検証する方針を発表します。

社長の木村さんは、自身が主導して、朝日新聞のこれまでの慰安婦報道を検証すると決めます。

前任の社長の秋山耿太郎さんは「蒸し返すだけだ、やめたほうがいいぞ」と木村さんに忠告しました。その他にも反対意見がありました。しかし、木村さんは「これをやらないと朝日新聞は次に踏み出せない」と検証に踏み切ります。

検証チームの記者は韓国の済州島に行き、島の住民約40人に取材しました。吉田氏の子息にも話を聞きました。その結果、吉田清治氏の証言はねつ造だったことが確実になります。

さあどうするか。

今の社長も「謝っちゃいけません」

訂正だけですむ話かどうか。朝日新聞社として謝罪する必要はあるのか。

編集局を束ねるゼネラルエディター(編集局長)の渡辺勉さんは「謝罪するべきだ」と腹を決めます。検証紙面案をつくり、そこには「おわび」をする旨が明記されました。

しかし2014年7月16日、役員と編集幹部の集まりで、社長の木村さんは謝罪に反対する立場を明らかにします。

謝罪すれば他の慰安婦に関する記事まで信ぴょう性を疑われることになる。慰安婦問題そのものがなかったことだと読者に受け取られるのではないかーー。

同様の意見は他の役員からも出ました。後に木村さんは周囲に「今の社長の渡辺(雅隆)君なんかも、最も『謝っちゃいけません』って(いっていた)」と語っています。

結局、社長の木村さんの意見が通りました。

朝日新聞社は8月5日に検証紙面を掲載し、吉田氏のうその証言を元にした記事16本を取り消しました。しかし謝罪しませんでした。

その結果どうなったか。それは次の回で。

=つづく

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