【編集長便り】「水に落ちた朝日」をたたいてビジネスーー葬られた原発報道(9)

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読売新聞と毎日新聞のチラシ。それぞれ「購読申し込み」の連絡先が刷り込まれている

2014年8月5日、朝日新聞社は特集紙面で過去の慰安婦報道を検証しました。原発事故の吉田調書報道を、朝日新聞社が取り消す約1ヶ月前のことです。吉田調書の「吉田」とは、東京電力福島第一原発の所長だった吉田昌郎氏のことです。

慰安婦報道の検証では、1982年から掲載された16本の記事について、うその証言があったことを認め取り消しました。証言は「山口県労務報告会下関支部動員部長」を名乗る吉田清治氏(故人)によるものでした。この吉田清治氏は「韓国・済州島で200人の若い朝鮮人女性を狩り出した」とうそをついていました。

しかし、記事を取り消したのに朝日新聞社は謝罪しませんでした。謝罪することで、他の記事の信憑性まで疑われ、慰安婦問題がないと誤解されることを懸念したからです。このあたりの経緯は第8回の「安倍政権の『慰安婦問題検証』に身構えた朝日社長」をお読みください。ところが謝罪しないことが読者や他メディアの批判を招き、さらに朝日新聞の慰安婦報道全体がバッシングの対象になっていきます。

つまり、原発の吉田調書報道が取り消される前に、すでに、朝日新聞社批判は猛烈な勢いで高まっていたのです。

この慰安婦報道を検証をめぐる批判を受け、朝日新聞社は「水に落ちた犬」のようになったわけです。

ところが、それを「ビジネスチャンス」と捉えた新聞社がありました。

「購読申し込み」のフリーダイヤルつきチラシ

私の手元に2種類のチラシがあります。

いずれも読者を獲得するために作られたもので、毎日新聞社と読売新聞社のものです。

毎日新聞社のチラシのタイトルは「従軍慰安婦報道 朝日の誤報問題 毎日新聞はこう報道しています」。毎日新聞がいかに慰安婦問題を正しく報じてきたかアピールしています。例えば、吉田清治氏の証言については「『強制連行語る』男性を21年前に批判」と題して、1993年にソウル特派員が書いた記事を紹介しています。気になったので、その記事の原文にも当たって読んでみました。「『強制連行語る』男性」、つまり吉田清治氏の記述は、2,187字の記事のうちの109字。「まじまじと(吉田清治氏の)顔をみてしまった」と書いているだけでした。ところが、チラシになると、「『強制連行語る』男性を21年前に批判」の見出しがつけられるのです。

読売新聞社のチラシのタイトルは「慰安婦報道検証 読売新聞はどう伝えたか」。読売新聞の社説「『吉田証言』ようやく取り消し」や、「長年、日本をおとしめてきた朝日新聞の責任は大きい」という読者の声を紹介しています。

両社のチラシとも、購読申し込みのためのフリーダイヤルが掲載されています。

ジャーナリストの卵の怒り

毎日新聞のチラシは、当時の朝日バッシングのさなか、20代のジャーナリスト志望の若者が私の同僚に手渡したものです。

その若者はカラーチラシを見せてくれました。自宅のポストに入っていたそうです。その若者は怒っていました。

「商売のために、新聞社が新聞社を攻撃して恥ずかしくないのでしょうか」

朝日新聞社が慰安婦報道を検証してから約2ヶ月後の2014年10月15日。新潟で日本新聞協会が開いた第67回新聞大会でのことです。毎日新聞社と読売新聞社のトップは販売の現場について「やり過ぎ」を認めるような発言をします。

毎日新聞社の社長の朝比奈豊さんは、この時の新聞大会の決議にある「品格の重視」を取り上げ「販売の現場でもかみしめていかなければいけない」。読売新聞グループ本社社長の白石興二郎さんは「朝日の訂正報道の直後、読売の販売現場の一部で、行き過ぎた販売活動により迷惑をかけたとすれば、おわびしたい」と語りました。

しかし、同じようなことは100年前にもありました。朝日新聞社が「国をおとしめた」とバッシングを受け、そこに同業者が便乗して商売に走るという構図です。次回はそのお話をしたいと思います。

=つづく

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