1972年に拉致を疑っていたのなら──消えた核科学者(24)

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        • ▶︎ 渡辺周 ワセダクロニクル編集長    友永翔大 写真/ワセダクロニクル
  • 拉致事件は警察庁の外事課が指揮をとっている(C)Waseda Chronicle

  • 日本政府が認定している拉致被害者は12事件17人いる。最も古い事件は1977年の9月19日。石川県の宇出津海岸で久米裕さん(当時52)が失踪した。最後の事件は83年7月頃、有本恵子さんが欧州で失踪した。

    しかし、竹村達也さんが失踪した72年の時点で茨城県警勝田署の刑事が「北に持っていかれたな」といっている。つまり、警察は政府が認定した最も古い事件より5年前、72年の時点ですでに北朝鮮による拉致を疑っていたことになる。

    もし警察が竹村さんの失踪した時点で政府の他機関と情報を共有し、拉致に対する警戒態勢をとっていたら、その後の拉致事件は防げたのではないだろうかーー。

    竹村さんの部下だった動燃の元科学者から、勝田署の刑事の言葉を聞いた時に私が思ったことだ。なにしろ竹村さんのケースは、国家の危機管理が問われる一大事だ。

    警察庁長官経験者も知らない

    当時の警察は北朝鮮による拉致をどの程度つかみ、どう警戒していたのか。

    私はまず、元警視庁公安部長の大森義夫さん(2016年9月に死去)に東京・飯田橋のホテルグランドパレスで会った。大森さんは内閣情報調査室長も務め、ペルーの日本大使公邸での人質事件の対応にあたるなど、難事件を経験してきた実力ある警察官僚だ。

    ホテルグランドパレスは、韓国のキム・デジュン元大統領が野党の指導者だった時にKCIA(韓国中央情報部)の工作員たちにより拉致されたホテルだ。大森さんは事件が起きた後、日本警察と韓国警察の関係が悪くなった思い出を語ったが、私が竹村さんの件を切り出すと全く知らなかった。

    大森さんは「警察での仕事人生を振り返った時、北朝鮮による拉致事件を防げなかったことをとても悔いている」といっていた。しかしその大森さんでさえ、竹村さんのことは初耳だった。

    警察庁長官を務めた国松孝次さんにも取材を申し込んだ。国松さんにはメールで、竹村さんの失踪事件の経緯と以下2点の質問事項を送った。

  • ①日本の警察はいつから北朝鮮による拉致を疑い始めたのか

  • ②それをいつから警察全体で共有したのか

  • すると、以下のような回答が返ってきた。

    「竹村達也さんというかたの件については、行方不明になったこと自体を含め、存知するところは何もありません」

    「北朝鮮による拉致事件全般については、もちろん、それらは、重大な事柄でありますから、現役の頃は、それなりの関心をもって仕事をしていたと思いますが、私自身、外事警察の経験はなく、事件を直接担当したことはありませんので、お尋ねの2点についても、確たるお答えをするに足る鮮明な記憶は、ないのです」

    「警察庁長官として、全般を見ていたのだから、何か憶えているだろうと言われるかもしれませんが、退官後、記憶は茫漠としております」

    警察庁長官が知らなかったのなら、警察が組織として、竹村さんの失踪事件を機に北朝鮮による拉致を防ぐ対策を取ったとは考えられない。

    JAEA「当時の情報管理のあり方は確認できない」

    プルトニウム技術者の竹村さんの失踪は、日本だけの問題ではない。

    当時の動燃には、核不拡散に取り組む国際原子力機関(IAEA)、日本政府、竹村さんが留学したアメリカの国立アルゴンヌ研究所への報告義務はなかったのだろうか。

     動燃の後身の日本原子力研究開発機構に対して質問状を送った。すると以下の回答が返ってきた。

    「関係部署に確認いたしましたが、当時こういった情報がどのように管理されていたのか、確認することはできませんでした」

    核技術流出の恐れのある事件の情報が、きちんと管理・引継ぎさえされていない。

    これが、核兵器の原料になるプルトニウムを扱ってきた日本の核管理の実態だった。

  • =つづく

  • 竹村達也さんについての情報をお待ちしています。強力なセキュリティをかける連絡方法も用意しています。プロバイダーがあなたの通信内容を政府機関に提供したり、政府機関が何らかの方法であなたの通信内容を把握したりすることは不可能になります。こちらをお読みいただき、情報をお寄せください。
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