日本が「カモ」にされるわけ──巨大たばこ産業の企み(4)

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      • ▶︎ 中川七海 ワセダクロニクル リポーター  

 

  • フィリップモリスの加熱式たばこ「IQOS」の健康への影響が、紙たばこに比べて少ないとはいえないことを、私たちはこのシリーズで詳しく報じてきた。

    にもかかわらず日本は、IQOSの世界市場の中でも大きな割合を占める。一時期はシェアが世界の9割を超えたほどだ。

    新型コロナウイルスによる世界の死者が2020年12月25日、174万人を超えた。とくに喫煙者は、重症率が3倍に上がることがわかっている。

    フィリップモリスはそんな中で、「家での時間を煙の出ないIQOSで」などとうたい、IQOSは健康に害が少ないと誤解する内容の広告を、日本各地の新聞に掲載している。

    なぜ日本は、ここまでIQOSの「カモ」にされているのだろうか。

    調べていくと、たばこの規制が、厚労省より財務省に左右されていることがわかった。財務省は「国民の健康」より、加熱式たばこがもたらす「税収」を優先していた。

    財務省は、広告をはじめとした規制に踏み込まない。世界各国の規制は厳しい。例えばメキシコ政府は、加熱式たばこの販売も持ち込みも禁止している。日本政府の姿勢とは対照的だ。

    自治体も国の姿勢に追随している。加熱式たばこの害について検証もしないまま、フィリップモリスに喫煙所を無償で設置してもらうところまで出てきた。

    大阪・吉村知事はフィリップモリスに感謝状

    フィリップモリスが費用を負担した加熱式たばこ専用の喫煙所=東京都品川区

  • 師走の日の昼下がり。東京・大崎駅前にある加熱式たばこ専用の喫煙所は会社員でひしめいていた。何種類かの加熱式たばこがあるが、一番多いのはIQOSだ。

    スマホを片手にIQOSを吸っていた会社員の金澤正浩さん(36)は、かつて紙たばこの喫煙者だった。1日1箱吸っていたが、5年ほど前に禁煙に成功した。しかし半年前、IQOSを始めた。金澤さんは「加熱式たばこなら健康に悪くないかもしれない」と思っている。

    この喫煙所は品川区が2020年8月11日、フィリップモリスの協力を得て設置した。品川区地域振興部地域活動課の黛和範課長によると、かかった費用はフィリップモリスが全て負担した。

    「今年4月ごろから、フィリップモリスと準備を進めてきました。金額は言えませんが、トリックアートも、デザイナーも、パネルやゴミ箱も、喫煙所設置の費用について、区は一銭も出していません。とてもありがたいです」

    だが黛課長は、フィリップモリスの宣伝を見て「加熱式たばこの健康リスクが小さい」と誤解する喫煙者がいることを知っているのだろうか。

    「科学的なことは分かりませんので、健康推進部健康課に任せています。でも実際、臭いや煙に対する苦情が減っているので、行政側からしたら、紙たばこよりいいんじゃないの、という実感があります。今後もフィリップモリスやJTと協力していきたいです」

    大阪府でもフィリップモリスは、加熱式たばこと紙たばこで分煙できる屋外喫煙所を無償で設置した。吉村洋文知事は2020年10月8日、フィリップモリスジャパンの井上哲副社長に感謝状を手渡し「今後とも協力関係で進めさせていただきたい」と伝えた。

    加熱式たばこにも健康リスクがあることを把握した上で、大阪府は感謝状を渡したのだろうか。

    健康推進室健康づくり課の東中庸子主査は「健康面については、大阪府では検証していません」という。

    「府では、一定額以上の寄付をいただいた方へ感謝状を贈呈しています。喫煙所の値段についてはいえないんですけど、基準以上の額を負担してもらいました」

    「JTさんも候補にありましたが、フィリップモリスさんは、加熱式たばこと紙たばこのエリアを分けた喫煙所を提案していて、面白いアイデアなので採用しました」

  • 吉村洋文知事(左)とフィリップモリスジャパンの井上哲副社長(大阪府提供)

    禁煙学会「IQOS喫煙後に重症肺炎」

    そうした状況に、医療関係者は懸念を強める。

    一般社団法人日本禁煙学会は2019年9月30日、作田学理事長名で「加熱式タバコは致死的肺傷害を発生させます」という緊急警告を出した。宛先は、厚労省健康局長と財務省総務課たばこ塩事業室長だ。

    禁煙学会は日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会、日本看護協会の各会長が役員を務め、医師を中心に3500人を超える会員がいる。

  • 【日本禁煙学会の役員】
  • 日本禁煙学会のウェブサイトより

  • 緊急警告では世界各国の死亡例や重症例を挙げ、日本でも16歳と20歳の男性がIQOSを吸った後に重症の肺炎に陥ったケースを報告した。禁煙学会は、コロナが感染拡大する中でも、加熱式たばこの危険性を訴え続け、WHOや専門家の見解を挙げながら「フィリップモリスが『リスク低減たばこ』と宣伝しても誤解しないように」と呼びかけている。

    国際条約ではそもそも、たばこに関する広告は全て禁止されている。「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(FCTC)」の決まりで、加熱式たばこであっても同じだ。世界182カ国が締結している。日本も2004年に批准した。

    しかし日本は独自のルールを適用している。どんなルールなのか。

    加熱式たばこで年間1200億円の税収

  • 日本でたばこの販売と広告についてのルールを決めるのは、たばこから税金を徴収する財務省だ。健康面を担当する厚労省には、権限がない。

    財務省は、加熱式たばこの広告に規制をかけるつもりはない。紙たばこの喫煙者が減っているからだ。紙たばこでは毎年2兆円の税収があった。加熱式たばこの喫煙者を増やし、新たな税収を得る必要がある。

    実際、財務省は2014年の加熱式たばこの日本での発売以来、段階的に税率を上げ、今では約1200億円の税収を得ている。

    財務省理財局たばこ塩事業室の見解はこうだ。

    「たばこは税収を得るための『財政物資』です。販売面を財務省が進めるのは法律に準じたことです。健康リスクがわかるのは、疫学調査で10~20年後です。安全面の検証は引き続き厚労省にお任せします」

  • 【2兆円を維持してきたたばこの税収】
  • 財務省のウェブサイトより

  • 「財務省お墨付き協会」の役員3人がフィリップモリス

  • 財務省がたばこの広告規準づくりを任せているのが、「一般社団法人日本たばこ協会」だ。規準は財務大臣の指針に基づいてつくることになっているが、指針が「運用の詳細等については、業界団体が自主規準を定め、これに沿った運用が図られています」という内容なので、財務省がたばこ協会に「丸投げ」している格好だ。

    日本たばこ協会の規準では、広告の大きさや回数などを守れば新聞にたばこの商品広告を掲載することができる。IQOSの新聞広告は、その規準では問題ないことになる。

    本シリーズの第2回で報じた「23万人がレンタルしたぜよ」というような煽る表現や、健康に害がないと誤解させる表現についても、協会の規準では規制していない。

    日本たばこ協会はどのようなメンバーで運営されているのか。

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  • 【一般社団法人日本たばこ協会の役員】
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    役員7人のうち3人は社長のシェリー・ゴー氏らフィリップモリスの幹部だった。大阪の吉村知事から感謝状を受け取った井上哲副社長も含まれている。他の4人もたばこ会社の幹部か元社員だった。

    たばこ業界関係者だけで規準を作れば、業界に有利な内容になるのではないか。

  • 加熱式たばこ企画室の鈴木祐介氏はこう答える。

    「私たち協会が定める規準は、国内の法律に則って運用しているので問題ありません」

    フィリップモリスの広報も「日本の法規制を遵守している」と回答した上で、財務省を持ち出した。

  • 「日本たばこ協会は財務省の審議会に自主基準を提案しました。これを受けて審議会の2018年12月28日の会議において、その内容が協議され、承認されました」

  • =つづく

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このシリーズは、組織犯罪の取材に力を入れるジャーナリストグループ「OCCRP」(Organized Crime and Corruption Reporting Project)やワセクロなど世界11カ国のメディアによる共同取材です。

「Blowing Unsmoke」 メディアチーム
OCCRP、Report・Rai 3イタリア)Kyiv Postウクライナ)Rise Romaniaルーマニア)TBIJ (イギリスIRLマケドニア)Aristegui Noticiasメキシコ)Cuestión Públicaコロンビア)Plaza Publicaグアテマラ)、Mariela Mejía (ドミニカ共和国)

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