アリンコの知恵袋⑤ 地方にアンテナをはる朝日新聞記者「日本の毛細血管を壊死させるな」

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 ワセクロが頼りにする「知恵袋」たちを講師に迎えた全8回の連続講座、「アリンコの知恵袋」。第5回が「地盤沈下する地方自治~膨らむ無投票の行方~」をテーマに9月11日に開かれた。

講師は朝日新聞地域報道部の菅沼栄一郎氏。東北や北海道など地方の最前線で取材を続けてきた。取材内容は地方自治からエネルギー問題、東京のゴミ問題まで多岐にわたる。福島第一原発事故の連載「プロメテウスの罠」の「4代目船主」では、福島の魚にこだわり漁業復活のために苦闘する漁師たちの姿を描いた。

 地方自治はいま、様々な問題に直面している。「縮む日本」を現場で感じてきた彼の目に、未来の地方自治の姿は浮かんでいるのか。地方が再び活性化するにはどうすればいいのだろうか。【斉藤林昌】

朝日新聞の菅沼栄一郎氏。永田町の政治の舞台裏から過疎に喘ぐ地方の苦悩までウォッチしてきた

無投票はなぜ増えた?

 地方議会がいま抱えている大きな問題の一つが「無投票」だ。選挙の立候補者が定数に満たず、投票なしで議員になってしまう。候補者同士の議論がないため、良し悪しを測るのは難しい。そもそも、選挙を経ずに選ばれた候補者が議員としてしっかり役割を果たせるかもわからない。無投票は、議会機能の低下に繋がりかねない。

 無投票が増えた理由は、主に2つある。

 一つは人口減少。特に地方では、急速なスピードで進みつつある。人口が減れば、選挙に立候補する可能性がある人の分母も減ってしまう。

 それ以上に深刻なのが、議会への「無関心」だ。「議員に期待しても仕方がない」という諦めのような気持ちを抱いている人が増え、選挙に出て地元を変えようとする人も減っている。

 民主主義の根幹をなす選挙ができない「無投票」が進めば、地方自治は崩壊してしまうかもしれない。地方は日本の毛細血管だ。一本ずつ壊死していくのを眺めている今の状況が続けば、いずれ壊死は全身に広がり、救う術はなくなる。地方自治の問題は地方だけに留まらず、この国全体の問題なのだ。

地方議会の「カンフル剤」

 この状況を変えるためにどうすれば良いのか。

 国の政策主導で地方議会を救おうとした人がいる。現・早稲田大学公共経営大学院教授の片山善博氏。菅内閣で総務大臣を務めた2010年、地域主権改革に力を入れる中で、地方自治法の改正によって「住民投票の法制化」を進めようとした。

 議会の解散や首長の解職を求める住民投票は地方自治法に定められており、法的拘束力を持つ。一方、自治体の政策を住民が問うための投票については、明文規定がない。住民の求めで自治体が条例を設けて住民投票を行うことはできるが、法的拘束力はない。住民投票の法制化を、弱り切った地方議会のカンフル剤にしようとしたのだ。

 しかし、東日本大震災の混乱の中、実現しないまま終わった。その制度は、いま現在も変わっていない。住民投票には、議会と戦う力がない。

 そんな中、議会に頼らず市民同士で地域の問題を考えよう、という動きが出てきた。

「プロの住民」になる

 その一つが政策シンクタンク「構想日本」が提唱した住民協議会だ。無作為抽出でハガキを出し、住民同士が地域の個別の問題について話し合う。この取り組みは全国で広がりつつあり、2019年までに67の自治体で実施されている。

 そのうちの一つ、福岡県の大刀洗町では「普通のおばさん」が地域の課題解決に取り組んでいる。古賀そのみさん(47)は、信用金庫でパートをする傍ら、住民協議会に参加した。「最初は面倒だった」が、子育てやゴミ問題について話し合う中で、「問題の本質がわかると面白くなってきた」という。そんな古賀さんに議員になることを勧めると、こんな返事が返ってきた。

「いえ、私はプロの住民になるんです」。

住民協議会に議決権はないが、住民の立場からでもできることはある。

高知・大川村からの学び

 議会の外での活動が盛んになるなか、議会復活ののろしも上がりつつある。

 例えば高知県大川村。住民全員が参加する「町村総会」の実施を巡って話題になった。

 大川村は2017年5月、村の議会を廃止し、住民が直接村政に関わる町村総会の導入を検討した。議員のなり手不足に悩んだ村議会が考えたことだ。高齢化が進む地方の議会の姿として多くのメディアに報じられ、総務省には研究会ができた。

 だが結局のところ、実施には至らなかった。現実的に不可能と判断されたからだ。大川村の人口は約400人。過去に町村総会が置かれた例は2つあるが、どちらも人口50人以下の村だった。400人もの人数で意見をまとめるのはそう簡単ではない。「足の悪い高齢者はどうするのか」といった問題もあった。

 そこで無投票対策として考え出されたのが、条例による兼業範囲の明確化だ。地方自治法は議員に対して、自治体と関係がある団体との兼業を禁止しているが、その「関係」の範囲が明確ではなかった。

 この条例で、4月の村議選で当選した新人候補の岩崎一仁さんは、村の森林組合理事だったが、この条例によって立候補が可能になった。町村総会を巡って村民の政治への関心が高まったこともあり、村議選では無投票は避けられた。

 兼職規定を緩和することが、無投票の治療薬になる。これは大川村の騒動から得られた大きな学びだ。

「議会のあり様はいろいろでOK」

 地方での議員選挙の無投票は今に始まった問題ではない。 全ての議会に有効な特効薬はないが、これまで皆がいろんな対抗策を考え、実行されつつある。

 例えば、兼職規定を緩めることが無投票対策につながるとわかった。住民協議会で議会の外から発破をかけることもできる。国会のような二院制を導入するのも方法だろう。

 それぞれの議会が様々な形をとっていいのではないか。議会の活性化は地方の活性化だ。

 議員、市民の差を問わず、皆が問題に対して向き合うことができるか。地方自治の行方はそこにかかっている。

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